ここはとある山林の中にある鍾乳洞。その鍾乳洞の出入口を兼ねた料金所に少年が1人、夏の暑さにめげず、イスに座っていた。
「ありがとうございました。ライトとヘルメットはこちらにお返し下さい」
手で場所を示して、そして‥ふと時間を見ると‥営業時間ギリギリ。今日はこれ以上来ないでほしいと強く望んだ客が帰った。
他に誰も来ないことを願いつつ、時計と睨み合い、営業終了時間から1秒が過ぎると、そそくさと料金所を閉めて、最後の仕事。忘れ物や落とし物。迷子の確認など、ライトを右手に鍾乳洞に入っていった。
ひんやりとした鍾乳洞の中。外との温度差から一瞬、身震いをして、確認するようにライトを上や下に照らしていく。水滴が滴り落ちる音が所々で響く中、順路→と書かれた見慣れた看板と、それに沿うように設置されている蛍光灯を次々と追っていく。
鍾乳洞は一本の道ではなく所々分岐している。安全対策と迷わないようにを兼ねて、途中で行き止まりになっている箇所は全て閉鎖されている。
封鎖されている門の前で、違和感に駆られて足を止めた。そして‥何をする事なく前へと進み……
落ちている物や、迷子もなく無事に外に出ると、逆走を始めて‥先程の門の前まで戻った。
外気と多量の水分で冷やされた、ノブに触れて回せば‥ドアは音を立てて開いた。
鍵は掛かっている筈。違う‥。開いているならこの奥に誰がいる。少年は確信すると、極度の緊張と共に不安が心を染めていった。
左手で岩肌を触りながら、先に進んで行き……そして、ライトの明かりが細くウネウネと動いている何かを照らした。
小動物の類いと思い、緊張を解すように息を吐き出して、胸を撫で下ろした。が‥
「誰?」
声が返ってくる事を予想していなかったために、口から心臓が出るほど驚き、それと同調するように、鍾乳洞全体に声が響き渡った。
「うるさいわね‥」
明らかに不快感を示す声。そして‥足音とは違う、何かが這いずるような音。それと同じくヘビが威嚇する音も聞こえる。
「それ‥眩しいから、何とかしなさい!!」
怒気と強制を孕む声。ライトを消すと、再び付ける時に困らないように、真上に向けた。
声の主はゆっくりと少年に近づき、仄かな明るさがその身体を照らし……
ヘビと人を足して、割ったような姿に少年は驚き、戸惑った。だが‥
「ここで何をしているの?」
恐怖や怯えといった感情は全くなく、普通に接した。
「ここは私の住み処よ。住み処なんだから、何をするも私の自由よ!!」
彼女は少年と顔を合わせないように、そっぽを向いて言うも、髪の蛇は、威嚇する音を完全に止めて、好意的な目で少年を見ていた。
「ここ寒くない?それに……」
殆ど衣服といったものを身につけていない身体に自然と視線を集めてしまった。
「ば、ばかっ!ど‥どこを見ているの!!」慌てて腕で胸を隠し、少年も慌てるように後ろに振り返った。
「ご、ごめん‥。で、でも‥その格好だから寒いかなって……それに、ここは食べる物が少なそうだから‥」
「さ、寒くないわ!!今の時期、外は暑いから寧ろ、これで丁度いい位よ!私はこう見えても‥あなたが思ってるよりも身体は強く出来ているの!!それに食べ物の事なら、おあいにくさま困っていないわ」
「あ、あと‥暗くて不便にしてるかなって……」
力弱い少年の声。その後、暫くの沈黙。
「本当に不便なら、住処として選んでいないわ!!
…………。鍾乳洞の中から私たち以外の誰の声が聞こえないわ。だから…今は外は夕方か夜なんでしょうね。なら‥暑い昼とは違って、少しは涼しい筈‥よね?」
「う、うん‥。そろそろ夕方くらいだと思う‥」
「そ、そう夕方になるのね‥。な、なら‥。あなたが私の事を出したいって言うなら、出てあげてもいいわ。でも‥私の手を握った後に、私の顔を見るの。分かった?また胸を見たら、その時は本当に怒るわよ!!」
「う‥うん」
少年は返事と共に頷くと振り返り、彼女の手を握った。
「これくらいなら痛くない?」
「もっとよ!もっと強く握りなさい!!」
「強く握ったら、手を痛くさせるだけで‥」
「身体が強く出来ていると言ったわよね?だから、握られた位じゃ少しも痛く無いわ!!」
少年は力の限り手を握った後、約束通り顔を見た。彼女もその視線に一瞬、逸らしそうになるも‥返すように強く、みつめて少年の手だけを石化させていった。
「い‥いつまで見ているの?私を出すんでしょ?は‥早くしなさいよ!!」
咄嗟に視線を外した。
「う、うん」
少年は彼女を気遣うように、ゆっくりと歩き、彼女は彼の後ろ姿から目を逸らしてたが‥髪の蛇だけはその姿を視界に捉えていた。
2人が鍾乳洞から出た頃には陽は傾ききり、山林の方へと沈むその寸前に2人を照らしていた。
「こ、これで暑さが無くなれば、少しは過ごし易くなるわね
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