食事の間へと通されたマリアンヌだが‥圧倒される程に豪華で贅を極めた部屋。装飾が施され尽くした無駄に長いテーブル。そして、大勢の執事や料理人に囲まれての食事。その全てで極度の緊張を生み、食べたこともない料理が並ぶも、その味を堪能出来ずに、味気ないままの食事の時間は終わりを告げて、エティエンヌと共に自室の方へと戻り、独りで部屋に入った。
誰もいない安心感からか胸を撫で下ろすように長く息を吐き出し、そして‥「一騎打ちでもあれ程、緊張しない‥」心中を吐露するように独り言を呟き、その場に慣れきっているジルとエティエンヌの事を感心していた。
心の落ち着きを取り戻し、デュノワの店の事を思い出すと、エティエンヌを誘って行こうと意気揚々にドアをノックしたが反応が全く無いことに一瞬、探そうとも考えが過るも‥迷子になるのが目に見えているからこそ、諦めて部屋に戻った。
同じ頃。ラヴァル城の地下。
ここはラヴァル城に勤めている者でも、ごく僅かな者しか知らない場所。そこにはジルの私室と他に2つの部屋。そして‥名前の無い墓標。ジルの私室には主以外にエティエンヌの姿があった。
「私を同行させた理由を聞かせて下さい」
報告するような淡々な物言いとは違い、声に感情を‥怒気が入り交じっている。
「理由を問いたいのは私の方だ。大袈裟にも、いかにもそれらしい文面の手紙を寄越したうえで、客人として連れてくるのだからな。それに‥本当に疑わしく、闇に葬る気があるなら、手紙ではなく‥事後報告で済ましているのではないか?」
ジルは怒気に構わず、平然と返して二の句を続けた。
「だから『サルウィンのためにその身を賭した方をもてなして下さい』と解釈したのだが不服か?」
マリアンヌは胸の内を理解されていた事に安堵していたが‥
「違います。その事ではありません。私が‥いえ、ラヴァル領の執事長エティエンヌとして、エレバスに占拠された土地を自由に解放していけば、アムールの王族、貴族がお母様に‥ラヴァルに対して風当たりを強くしていくだけです。それが‥」
エティエンヌは細身の剣を抜くと、自身の腕に刺して‥流れ出た血は腕、指と伝い、その下にある瓶へとゆっくり溜まっていく。
「国と国を支える民にさえ目を向けず、己の利益のみを追求するような、者共からの風当たりが強くなっていくのであれば、ラヴァルは以前と同じ形を‥1つの国として独立する。それだけの事よ。だから貴女は貴女の自由に戦っていいの。それに‥貴女に気付かれないように、その準備を着実と進めているのよ」
小休止するように口を止め、血の注がれた器をゆっくりと口に運び、喉を潤していった。
「それに‥ラヴァルからの義勇兵にあの子を入れて送り出せば、その子の事が心配な貴女は後方支援を買って出るでしょ?なら‥と思っただけ」
エティエンヌは考えが完全に見透かされている事に驚く素振りを全く見せずに、止血を施していった。
「たとえ、準備が整っていても‥正しい事をしているお母様に対して、風当たりが強くなっていくのは見過ごせません!だから‥だから、私は‥執事長のエティエンヌとしてではなく、ラヴァルに住むダンピール。カトリーヌとしてこの争いを戦います。そうすれば少しは‥」
静かに力強く言い放ち、ジルの部屋を出ていった。
そしてすぐさま、向かいにある自分の部屋に入ると、執事服を脱いでタンスに掛け、胸を隠すように巻いていたサラシを取り去り、髪型を変えて、隣に掛けてあるダンピールの服装に手を伸ばして、身を包んだ。
着替えが済むと部屋を出て、名が刻まれていない墓標へ跪き、両手を祈るように胸元の前で握り合わせた。
「お父様。暫くの間、顔を見せる事も、お部屋を掃除することも、祈る事が出来ない、私を許して下さい」
目を閉じて、心の中で呟き、祈りを捧げた。
カトリーヌはゆっくりと目を開けて、隣に母親のジルも祈りを捧げている事に邪魔をしないように、静かにその場を後にしようと立ち上がり背を向けた。
「カトリーヌ。貴女が無事にラヴァルに戻ってくる事をあの人も‥エティエンヌも望んでいると思うわ」
「はい。お母様。行ってきます。例え、私の身に何が起きても、ラヴァルの民を危険に晒さらすような、答えを出さないで下さい」
ジルに振り返る事をせずに力強く返事をかえすと、上へとあがる階段を一気にかけ上がった。
「ねぇ‥。エティエンヌ。貴方が生きていたら、あの子に何て言ったのかしら?貴方の後を継いで執事長すると言った時も、今も……」
答えを返すことのない墓標を見つめたまま、ジルは話を続けた。
「今日は‥今夜は、ここにずっと居させて」
温もりを求めるように身体を墓標へと寄せて、目をゆっくりと閉じた。
朝。カトリーヌは隣の部屋からの物音を聞き聞き取り、マリアンヌが起きている確証を得ると、ドアを
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