デュラハンのマリアンヌは長旅の疲れを癒すために立ち寄った町。サルウィンで宿をとり……
そして夜‥。
薄暗い森の中。3人の兵士は闇夜を照らすために各々が松明に火を灯すと、馬へと跨がりサルウィンへ向けて進路を進み‥着くと兵士の1人は木造家屋に向かって松明を手放して、剣に手を掛けた。
異変‥怒号や剣戟の音が聞こえてマリアンヌは目を覚まし、愛用の剣を掴むように取ると、急ぐように外に飛び出して‥宿を取る前との様変わりした景色に激昂し、その元凶と思える騎乗した兵士へと剣を構えた。
戦いは一瞬で決着が付いた。狙ったのは脇腹。剣身の腹で鎧が窪む程、強く打ち付けた。兵士はその勢いで落馬をして、地面に身体を強く打ちそのまま気を失った。
その様子を見て、残り2人の兵士に囲まれるように挑まれるも、苦戦することもなく1人を落馬させて、2人目に狙いを定めた所に、その間を裂くように1本の槍が投げられて、マリアンヌの目の前に深々と刺さり、反射的に投げられた方向へと目を向け‥そこには馬を降りた、これまでの3人の兵士とは見るからに実力の違う兵士が立っていた。
「た、隊長…」
「情けない声を出すな。お前ではこの者の相手を務めるのは無理だ。だからお前はそこ2人を連れて、ここを退け」
「は、はい」
隊長と呼ばれた兵士は、マリアンヌの注意を引き付けるように剣を抜き構えた。
「なぜこんな酷いことをするの!!」
マリアンヌは声を荒げた。
「酷いことだと?………。そうかお前。国の事情も知らない流れ者だな?兵を手に掛けなかった事に免じて、今ここで退くなら見逃そう」
「だからって目の前の惨状を見過ごす事は出来ないわ」
「そうか‥ならば、後悔しても知らんぞ」
男は小さく呟くように、言い終わるとほぼ同時に素早く数回突きを放ち、マリアンヌは全て剣で弾いて防いだ。
「私の命を直接狙わなかったのは、警告と受け取るべきなのかしら?」
「今のは部下の命を取らなかった礼だ。次からはその命を狙う」
男は顔つきを鋭く変えて構えた。
周りに誰もいないからこそ、徐々に激しさを増していく互いの剣戟。まばたき1つが致命的なスキになる中、剣と剣は互いに交差し、身で躱し合い、時にぶつかり合いその刹那、小さな火花がいくつも散らして、そして‥躱しきれなかった僅かな斬撃が互いの甲冑を掠り、微量に削っていき‥2人の剣技は完全に拮抗していた。
その中でマリアンヌの剣が男の剣に当たり、軌道が僅かにずれて、肩口に振り下ろされた。刃先から男の血が伝い、マリアンヌの指を流れ、滴となって地に染み込んでいく。
「血……血……」
マリアンヌは呟くように繰り返し、剣から流れ出ている血を見たショックで顔は真っ青に変わり、力が抜けるように剣の柄から手を離して、崩れるように地面に膝をつき‥戦意を完全に喪失していた。
男はマリアンヌの命を奪うべきか、奪わないべきかを迷い……剣を納めるとその場を後にし、マリアンヌも力の入らない身体でその様を見つめていた。
「大丈夫ですか?」
後ろから別の人の声がするが、振り向くことが出来ずにいると正面へと回り込み、マリアンヌを心配するように、手を差し出した。
「立ち上がれますか?」
マリアンヌは言葉を出さずに首だけを力なく振ると、彼はマリアンヌの腋に首を掛けて、ゆっくりと歩きだし、宿の一室まで運び込んだ。
「見たところ外傷は無いようですね。わたくしめは剣を持ってきますので、こちらで休んでいて下さい」
彼が踵を返して部屋を出ていくと、マリアンヌは肩に体重を掛かるように壁にもたれ掛かり、目を軽く閉じて、深呼吸を繰り返した。
彼は宿から出てすぐに、近くに居た男と話し‥3羽の鳩を手渡されると、同じ内容の手紙を3通書いて、それぞれの別の足に付いている筒の中に入れてから、闇夜に向かって放ち、その後で剣を取りに行った。
「御加減は如何でしょうか?」
彼はノックした後にドア越しで声を掛けたが、マリアンヌから返事が無いために剣をドアの前に置いてから、近くの壁に沿って、立ったまま腕も足を組むと、そのままもたれ掛かり軽く目を閉じた。
そして朝。
彼は昨晩からマリアンヌが部屋から出てこない事を、気にも留めず同じ体勢のまま待ち続け……部屋の中から微かな音が聞こえると体勢を戻して、剣を手に持ち、ドアが開かれる事を待ち続けた。
マリアンヌはドアを開けて、まず唖然とした。昨日、自分を手助けした人が頭を垂れて、自身に向けて両手で愛剣を差し出していたからだ。
驚きのあまり、ぎこちなく剣を受け取ると一言礼を告げた。
「後加減は如何でしょうか?」
「え‥ええ。大丈夫よ。問題ないわ」
「申し遅れました。わたくし、エティエンヌという者です。ここサルウィンが属しているラヴァル領、領主。ジル様の執事をしております」
エティエンヌはマリアンヌの
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録