3話 夏の海 A

意気消沈の雫にスピカとヴィオが元気付けようと近くに寄ったその瞬間。砂で作った団子が雫の顔に直撃した。
飛んできた方へ明確な怒気を持って睨むような視線を見ると、そこには薊がいきり立っており、足元に置いてあるビーチパラソルと寝そべられる簡易なイスに机を担いで雫の方に向かってきた。

「あのさ‥雫。スピカもヴィオも楽しい雰囲気なのに、雫1人が落ち込んでいると全体が暗くなるの。わかる?」
ビーチパラソルとイスと机を設置した後、スピカとヴィオから遠ざけて、雫をイスに座るように強制した。
「尻尾もだらしなく垂れ下がって‥。何があったか話してくれるよね?」
言葉と口調は優しいものの、強要している声。
「うん……」



聞き終わり、薊は溜め息を出した。
「なんでそこで逃げたの?」
「だって‥嫌われたって思ったから‥」
先程のよりも長く、深い溜め息。
「男なら女に抱き付かれたら、普通は喜ぶと思うよ」
「だって‥だって…」
「あぁ…もぅ!!」
雫の煮え切らない態度に薊は苛立ち、両手で雫の両頬を顔を挟んだ。
「全部が全部楽観的に考えているよりはいいと思う。でも‥失敗したからってその度に重く考えてたら、いつか失敗する事に怖がって何も出来なくなるよ!」
雫は軽く頷いたが、その顔からは悲しさだけを表していた。
「全く‥世界の終わりって顔をして…。なら歳破君に電話かメールでもしたら?」
「電話‥か‥メール‥?」
訳も分からず聞き返した。
「そ。クラス委員として、緊急時の連絡のためにクラス全員と担任の携帯番号とメルアドが私の携帯に登録してあるから。公私混同になるけど‥それとこれは今は別」
携帯を渡されて、電話帳を開くと同じクラスの名前が載っており、さ行を開き……歳破の1つ下に載っている名前の欄を見て固まった。
「どうしたの?」
「薊‥その……私の所なんだけど‥。その……この写真‥」
「ああ。それね。今朝、雫の部屋で撮った写真。昨日の夜はお楽しみでしたねって感じが出てるでしょ?雫から電話が掛かるとその写真が映るように登録したから」
「お願いだから消して!今すぐ消して!!」
「ダメ♪雫も歳破君の写真で気持ちよくなったなら、歳破君も雫の写真で気持ちよくなるべきかなって思うの。だから‥歳破君に送ってあげよっか?」
邪悪な笑みを浮かべ‥雫は瞬時に送信すると悟った。
「止めて‥。お願いだから止めて‥。なんでもするからぁ‥」
「なんでもするなら‥」
更に邪悪な笑みを浮かべ、その顔に雫は顔を青くして固まった。
「嘘よ。嘘。嘘。これ以上、雫をイジって大泣きでもされても困るからね」
雫から携帯を取り、雫の見ている目の前でその写真を消した。



「あのさ‥何?歳破君に連絡しない気?」
写真を消したあと、雫に携帯を渡して‥それから暫くの時間が流れていた。
「なんて書いていいか分からなくて‥」
尻込みしている雫から奪うように携帯を取り上げて、そして‥
「スピカ!!ヴィオ!!かき氷食べる?」
2人がいる海の方に今まで募ったイライラを表すように怒鳴った声を出した。

「レモンとイチゴで!!」
スピカも大きな声で返した。
「分かった。レモンとイチゴね!
雫はかき氷食べる?」
睨むような視線と怒気を孕んだ声を出し、
「私も‥イチゴで……」
蚊の鳴くような声で答えた後、どこかに電話を掛けた。
「あっ‥私。私。かき氷4つお願い。味はイチゴ2つとレモンと練乳で…」
そして‥事務的な話を始め……
「それと‥スイカと一緒に浜辺まで持ってきてくれると助かる。さっき重くて持てなかったから。うん。ありがとう」
電話を切り、再び雫を見た。
「ルームサービスで歳破君がくるから、その時までに何を言うか決めておくように!!」
「う‥そ…でしょ?」
雫は再び固まった。
「これは本当♪ここまでしたんだから、何もしなかったら……その時こそ、どうしようかしらね?」
再び邪悪な笑みを浮かべた。




「あ‥あの…。かき氷を4つとスイカをお持ちしました。スイカはどこに置いたら」
「ありがと♪かき氷は机の上。スイカは浜辺でいいよ」
歳破は水着姿の雫を極力見ないように、かき氷とスイカを置いた。
「ねぇねぇ歳破君。雫がスイカを頭突きで割る所を見てく?うりゃ!!って感じでゴンと頭をぶつけるだけだから‥面白みに欠けるけど‥」
薊は反応を面白がるように雫と歳破の様子を交互に見ていた。
「その‥バイト中だから…」
歳破は慌てるようにその場を去ろうとし、雫は何も言わず俯いていた。
そして‥何も言おうとしない雫に腹を立て、歳破に向かって背中から力一杯押した。

咄嗟の事で受け止める事が出来ずに、2人は正面からぶつかり‥縺れるように倒れた。

「痛たたた……」
雫は目を開き……そこには、歳破の顔が近すぎる距離にあってか、尻尾の毛が一気に逆立
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