1話 夏休みの始まり

終業式が終わり、その放課後。雫は薊と帰ろうと声を掛けようとしたそのタイミングで、薊は荷物を持たずに教室から出ていってしまった。

独り残された雫は暫く待ち続け……。そして、薊が全く戻らない事に痺れを切らし、諦めて独りで家路に着こうと教室から出た。
外は雲1つない天気。そのために陽当たりは何者にも遮られる事もなく直接、雫へと降り注がれていった。
「あ゛つ゛い゛……」
声としては出ないものの、ただ一言に尽きる率直な感想。
1つか生えていない尻尾を垂らせば地面からの照り返しで熱せられてしまうために身体に巻き付けてる。が‥これが余計な熱を身体に溜め込む一因を買っている。
「モフモフにとってこの時期は地獄ね‥」
これも声に出さず心の中で呟いた直後、睨むような視線を太陽に返していた。


途中、涼しい雰囲気を醸し出している喫茶店を見つけ、その誘惑に負けて中へと入り…
メニューを見て‥体重を密かに気にしているためにケーキは無いとして‥葛切りにするか?かき氷にするか真剣に迷っていた。
「食べた栄養が身体にいかず、胸にいけばケーキをいくつも食べたいんだけど……」
切実な想いを胸の内に秘め、搾るように溜め息だけを出して、悩み抜いた末に水分補給と身体を冷やす事が出来るかき氷を選んだ。


涼しさに冷たい食べ物。出来る事ならこのまま喫茶店に住みつきたい。その率直な思いが心の大分部を占めていった。が‥現実問題に直面し、諦めて会計を済ませて喫茶店から出て‥そして再度、嫌がせと言わんばかりに強い日差しが身体を襲い、食べたかき氷は瞬時に汗へと形を変え、身体から染み出していき…汗を吸収したブラウスは彼女のブラとその水玉の模様まで透かし、彼女も自身の背中の状態に全く気づかずまま、ひたすらに家を目指して歩き続けた。


「ただいま‥」
荷物を玄関に置き、手を団扇のように扇ぎ涼しい(?)空気を顔に送った後、台所で妖狐の顔の絵が描いてあるマイコップを取り、冷蔵庫の中の冷えている麦茶を手に掛け、尻尾で冷蔵庫を閉め、次いでアイスからの誘惑に誘われて、冷凍庫の取っ手に尻尾を引っ掛け‥ここでも体重増加が誘惑に打ち克ち、溜め息を出すと麦茶を一気に飲んだ。

身体中の熱さを冷ますように汗が吹き出し、ベトベトになった制服を着替えようと、玄関に置き去りにした荷物を持って2階にある自分の部屋のドアを開け、荷物をベッドの上に放り投げると鏡の前に立って、制服を脱ぎ、次いで汗を吸収した下着を脱いでいった。

鏡の前の自分を見つめ、その表情は真剣なものへと変わっていき‥大好きなアイドルグループを想像して、鼻唄でメロディーを奏でて、ステップをとり始めその振り付けを完璧なまでに真似ていた。

…が、途中、自身の胸の揺れが少ないことが嫌でも目に入ってしまい溜め息と吐くと共に止めて、谷間を強調するようなポーズをいくつか取っていき………肺の中の空気をを全て吐き出すような深く長い溜め息を出して、真剣な表情で豊胸マッサージを始めた。

マッサージの刺激に下腹部は湿り気を帯び始め、胸の尖端が自己主張を始めた頃には豊胸。その目的よりも快楽の方に呑まれ……いつしか、クラスの中で密かな想いを寄せている男子の名前を連呼して同時に手と腰を動かしていた。


下腹部からの体液で床に水溜まりが出来た頃。1回目の絶頂を迎えようとそのペースを早めたその瞬間。スカートの中に入っている携帯が鳴り響き、その音で現実に引き戻されて、慌てて出た。
「あっ雫?いまどこにいるの?」
声の主は薊。
「私の‥部屋…」
「電話越しでハァハァ聞こえるんだけど…欲情してて自己処理してたとか?」
冗談混じりで、問い詰めるつもりもなく笑って言っている。
「居間にいたら…部屋で携帯が鳴って……慌てて階段を昇ったから…だからだと思う」
その場しのぎの嘘をついた。
「居間から雫の部屋までってそんなに離れてないよね?階段を昇っても息切れする程疲れないと思うけど‥」
鋭く的確なツッコミが入った。
「それに今、雫の部屋のベランダに潜んでいるから何してたか見てたよ」
完全に絶句し‥心拍数が急激に上がり、そして‥恐る恐る窓を開ける音が薊にも聞こえ…
「う・そ♪
でも‥あんな簡単な嘘を信じるって事はしてたって事だよね♪」
「あのさ…あの‥あの‥」
パニックを起こし、何を言うか整理できないまま変な声だけをあげていた。
「性欲を自分で処理するのは男女問わず誰でもやっている事なんだから‥それに今、隣にスピカもいるから、この話は当然伝わっているよ♪」
「………」
目の前が真っ暗になる。そのような感じに囚われていった。
「前置きが長くなったけど‥明日から何日かヒマ?ヒマなら一緒に海に行かない?」
「最初から用件だけ伝えてよ」
口には出さず、密かな思いを胸に秘めた。
「うん。わかった
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