2話 夏の海 @

薊とスピカの2人はヴィオが何度止めても聞かずに今朝の事を雫に執拗に追及し、薊の家に着く頃には、雫の身体は魂が抜け出たように真っ白になっていた。

「あとはウチの執事が車で送ってくれるから」
助手席に薊、後部座席にスピカ、雫、ヴィオの順に座り、車は海へと向かった。


「あれ‥雫の声がずっとしないけど…寝てるの?それとも意気消沈?魂が鼻の穴からコンニチワ?」
薊は軽口を叩き、様子を窺うように見て、雫はヴィオに身体を預けて、だらしなく涎を垂らして寝ていた。
「車が動いてからすぐにこんな感じなったよ」
尻尾の滑らかな感触を両手で堪能しながらスピカが言った。
「海が楽しみでワクワクして眠れなかったのかな?」
薊は冗談混じりで言った。
「あ‥それ私です…。今日が楽しくてなかなか寝付けなかったです‥。だからその‥ホットミルクを何杯も飲んでいました」
ヴィオは頬を朱に染めて言った。
「ほら‥寝る子は育つって言うから、その内特撮の怪獣みたいに身長数十m。体重数万tとかになるよ」
スピカが冗談混じりに言ったことをヴィオは本気にして想像していた。
「楽しみは楽しみでも‥夜の方が愉しかったりしてね。大人しい人ほど激しいとか言うから」
ヴィオの頭の中に巨大化した雫が夜に大暴れして‥口から火を噴き、街を壊す絵が浮かんでいた。

「ねぇヴィオ。雫の尻尾ってすごい滑らかだから触ってみる?」
スピカは尻尾の穂先でヴィオの頬を軽く撫でた。
気持ちのよい滑らかさに思わずもっと触りたい誘惑に負けそうになったが‥‥自身が尻尾を勝手に触られる事を嫌うからこそ、無断で触る事に強い抵抗があった。
「雫は尻尾用トリートメントで大切に手入れしているから、お風呂が長くて…最初、シャワーのヘッドを外して直に挿れてるのかな?って思ってたんだよね。
それにしても‥本当に気持ち良さそうに寝てるね‥」
薊は雫の寝顔を携帯で撮った。
「入れてるって‥シャワーをどこに入れるんですか?」
「口‥にかな?」
「口‥にですか?」
「うん。口。ヴィオも他に入る穴知らないでしょ?」
「うん‥。でも、なんでお風呂で水を飲むのですか?」
「それは簡単。単純に水分補給でしょ。だってほら、お風呂のお湯を直に飲むわけにはいかないでしょ。それにヴィオも飲むならそっちの方を飲むよね?」
薊の意見に納得して2、3回頷くと、雫を少し変わった目で見た。

その後、談笑という形でヴィオをからかうように話を続け……車はホテルに着いた。

「雫。起きてよ雫!」
「雫さん。起きて下さい」
「このまま起きなかったら‥車内放置する?そうすれば暑さで嫌でも起きてくるよね?」
「薊さん。それはダメです!!雫さんの身体に悪いです」
ヴィオは頬を膨らませて怒った口調に変わった。
「水分が抜けた量と同じだけ体重が減るんだから‥体重を気にしている雫にはいいんじゃない?」
ヴィオは人差し指を顎に当てて少し考え……
「減った分の水を飲んだら‥体重は変わらないですよね?」
「うん。変わらないね」
薊はしれっと答えた。
「………。置いていくのを止めて下さい」

何をしても起きない雫をスピカが泊まる部屋まで運ぶ事になり……部屋に着くとベッドの上に寝かせ、スカートを捲りあげ‥雫の手を動かし、いかにも自身で捲り上げているように見せかけて、雫の携帯で撮り、待ち受けにした。
パンツをずり下ろして撮るのはスピカでも抵抗があった。

雫が起きるまで3人はテレビを見て時間を潰し………

「おふぁよぅ…」
雫は寝起きのそのままの顔で‥一言で表すなら、まだ寝足りない。その表情でフラフラ〜と覚束ない足元で数歩き、挨拶をした。
「さて‥雫も起きた事だし、水着を用意してある部屋に行きますか」
「そういえば‥薊。ここどこなの?」
「ウチの系列のホテル。だから海は完全にプライベートビーチだよ。たまに海の魔物娘が迷ってくるけど‥基本的には関係者以外立ち入り禁止♪」

部屋を出でて、薊の後を3人はついていった。
「私を運んでくれたのってスピカ?」
「そう。だから後でお礼がわりに夏休みの宿題を半分手伝って」
「半分!?」
量の多さに思わず大きな声を上げた。
「うん。半分。これで面倒なのが半分片付くから。嫌だったら雫の宿題の半分丸写しで‥」
「私の写したら先生にバレるんじゃないの?」
「その点は大丈夫!他にも数人から丸写しするから程よくミックスされた丸写しなら気付かないでしょ?」
「そういう問題じゃないと思います‥」
「夏休みを満喫するためにはこれしかないでしょ」
雫とヴィオから呆れを表すように、溜め息が漏れた。



一つの部屋へと入った。
「うちの所で試作品として作った水着が何着もあるから好きなの着ていいよ」
多種多様に並べてある水着に3人は目を輝かせて思い思いの水着をとり、服の上から
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