ベリルは誰もいない浴場で湯船に浸かり、未だ結論の出ない考えに耽っていた。
「あれ?姐さん1人?聖女さんはいないの?」
考えを邪魔された事でアゲートを軽く睨み「そんな怖い顔をしないで。ケンカとかしたの?」溜め息と共に思案するのを諦め、同時に1つの案が頭の中に生まれた。
「ねぇ‥惚れ薬とかそんな感じのヤツ扱ってる?」
「扱ってないよ。姐さんでも堕とせない男がいるの?いるなら薬に頼っても効果は限りなく0に近いと思う」
「あたしが使うんじゃないわよ。ただ……」ベリルは名を挙げずにそこで口を閉じた。
「姐さんが使わないとすれば‥誰のため?ってのは野暮な質問だね。でも‥仕入れるためにここを離れると困る人が出るから‥仕入れは出来ないよ」
「そう‥」溜め息混じりで返事をし、そしてすぐに別の話を始めた。
「なら‥精を得られるような薬みたいのはある?」
「そんな都合の良い物はない。でもなんで?姐さんなら10人切り、20人切りと簡単に達成しそうだけど」
「そうよね‥。そんなに都合よくないわよね…」
ベリルは再び溜め息を吐いた。
「神父から精を取りにってメタリアに言ったら激しく止められて…だから今、どうしようかなって考えてるの」
「メタリア‥?聖女さんの名前?」
「あれ?知らないの?」
「長いこと教会にいるけど‥周りの人が聖女様。聖女様って呼ぶから私も聖女さんって呼んでるだけだよ」
「そう‥ならアゲート。あなたの知っている人で快く精を提供してくれる人はいないの?このままの生活が続いたらあたしが別の意味で飢え死にしそう…」
「野望を達成するまで男は要らないと誓っているからそれも無理」
アゲートは言い切った。
「野望?お金を溜め込んで何をするつもりなの?」
「ナイショ♪」
ベリルはアゲートを軽く睨み「はぁ……。どこかにいい男いないかしら?」溜め息を思わず漏らした。
身体を洗い終えてアゲートと浴場で別れた直後。
(神父の精を取らないってメタリアと約束したけど……でも、これってあたしの死活問題だから‥ちょっとくらいのつまみ食いなら大丈夫よね?)
ベリルは誰もいない事を確認すると顔や体型を少し変え、更には用心のために声を変え神父のいる場所へと向かった。
ベリルは満足した足取りで部屋に戻ると、メタリアはイスに座って帰ってきたベリルに気づく事なく熱心に祈りを捧げており、ベリルはその様をずっと見ていた。
(………。ほんとに長いわね‥実は寝てるとか?そんな事ないわよね?)
そして痺れを切らせて話し掛けようとした矢先、メタリアはイスから立ち上がり「ねぇメタリア。そんなに祈って楽しい?」
メタリアは顔を不機嫌に変え「今のシスターらしくないです‥。私は慣れました。ですが‥他の方には絶対に言わないで下さいね」
「は〜〜〜い」
やる気のない返事をしたことで、更に呆れた視線で返され、慌てて違う話題に変えた。
「ねぇメタリア?この部屋ってベッドが1つしかないんだけど…どうする?」
「イスか床で寝ますから、ベリルさんはベッドを使って下さい」
ベリルはこの申し出を受ける事が出来ず、暫くベッド会議を開き、2人で一緒に寝るとの結論に至ったが‥2人で寝るには狭いために面積を少なくするために背中合わせで寝ることになり、ベリルはベッドに入ると今日の疲れですぐに寝てしまった。
そして‥
「あの‥ベリルさん?」
確認するように声を掛け‥様子を窺うも反応が無く、静かにベッドを出てベリルと向かい合うように床に座り顔を見た。
(話に聞いていた魔物娘よりもベリルさんはずっと穏やかな方‥。それに話し合うことも出来るのに‥なぜ私達は争って……)
メタリアはベッドからはみ出ているベリルの手を取って胸元に当てて祈り
「ベリルさんお休みなさい」
一言告げ、はみ出た手をベッドの中に入れるとベッドに入り眠りについた。
そして空が曙色に染まる頃。メタリアはベリルを起こさないようにそっとベッドから出ると静かに部屋を出て外の聖母の像に祈りを捧げ、空が完全に明るくなる頃には部屋に戻っていた。
「ベリルさん。いつまで寝ているのですか?早く起きないと朝のお祈りの時間が無くなってしまいます」
ベッド上で大の字で寝ているベリルを揺らして起こし「あームリムリ‥。今日、重い日だから動きたくない。パス」ベッドに身を沈めたまま嘘をついて力なく手を振った。
「重い日?何が重いのですか?」
直球な質問を返され、通じなかった事に諦め、そして‥(全員で祈るならどうせ誰も見ていないでしょ?だから寝てしまおうかしら?)この結論に達し、ダルい身体を起こした。
「メタリア。ホント早起きね。そんなに早く起きて眠くならないの?それともホントは祈っている時に寝てるとか?」
「ベリルさん‥。シスターになったのですから言葉を選んで言って下さい
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録