見張り台から悲鳴のような声が木霊した直後、辺りはすぐに緊張感のある空気に包まれていき、その空気を感じ取ったお母様がすぐに駆けつけて……
「アモーレ。念のために戦えぬ者を下がらせてほしいのじゃ。頼めるかの?」
「分かりました。引き受けます」
「そうじゃのぅ……。これなら、なんとかなるじゃろうな‥」
お母様は空を見て呟いていた時、お姉様もその場に合流して‥その表情は余裕がない程に張りつめている。
「スニューウは教え子ともに前衛の足止めを‥誰一人抜かれないように頼めるかの?じゃが、決してムリをするでないぞ。後は‥戦利品のお持ち帰りもなしじゃな。この戦は全員を生かして帰すことに意味があるのじゃからな」
「分かりました。全てを徹底させて、木の棒で応戦します」
お姉様の掛け声で近くにいた数十人の人間と魔物娘が木の棒に持ち替えて、避難をしている逆の方向へむかっていった。
「ここは危険になるかも知れねからの。ネーヴェは離れるのじゃ」
私は首を横に振った。
「そんな暗い顔をするでない。この戦はネーヴェを含めて、この場に居る全ての者の居場所を守るためにするものじゃ。じゃからワシもスニューウも必ず帰ってくる。ネーヴェに二度と寂しい思いはさせぬぞ」
お母様はお姉様が向かっていった方向に駆けていき‥私は後を追うことが出来ないまま、上を‥雲に姿を隠した陽を見ていた‥
「ネーヴェさん!!そこは危険です」
アモーレに引かれた手が私を現実へと引き戻し、お母様やお姉様が行った逆の方向に走っていった。見張り台を視界に納めた途端に何かが弾けるように、一気に駆け掛け上がり、呼吸を整えるよりもお母様やお姉様の姿を探して―――
お姉様の周りには先と同じ魔物娘や人達がいる。たが‥どれだけ探してもお母様の姿はない。私は更に遠くを見た。
母や父を討った人間と同じ考え方を持った人間共。いや‥同じ人間も混じっている可能性もある。憎くないか?と今でも問われれば憎いと答えるだろう。だが‥同じ人の中にはアモーレやここに住む人達もいる。だからこそ私は人を信じていられる。
数の上なら‥お姉様の方が圧倒的に不利。実力差から言えば心配事はない。だが‥何も出来ないまま、見ているだけの私自身がなによりも歯痒い。今が夜なら‥と雲に姿を隠している陽を見た。
最初に仕掛けてきたのは人間の方。雨のように矢を放ち、同時に私にも届く大きさの鬨の声。槍を持った騎馬が一斉に突撃をしたのも束の間。矢は突如吹いた突風により勢いを失い、流されて違う方向へ落ちていき‥お母様の援護と咄嗟に考えた。
矢が通じなかった事を最初から想定していたのか、騎馬は意に介さないまま突撃をして――
お姉様は前に出て‥普段と違い両手にそれぞれ木の棒を持っている。槍を片方の木で弾き、もう片方で人の腹部を突き倒してすぐに構えを直して、木の棒を振るう毎に騎馬の群れをなぎ倒していった。
騎馬が全滅する直前、途切れを見せないように甲冑に身を包み剣を持った騎士が押し寄せて――
お姉様は7人の騎士を同時に相手にして、同じ実剣なら相手にもならない筈。だが‥騎士は反撃をさせないようにタイミングを合わせて交互に攻撃を繰り返し、斬撃を防ぎ受けていく度に徐々に細くなっていく2本の木。周りの魔物娘も自身の相手に手一杯で援護も出来ない状態。私は咄嗟に左手を突きだして、手を広げ、魔力を集中させていくようにして……だが‥魔法は出ることはなかった。くいしばり、口から軋んだ音が聞こえる。広げた手を閉じて、見ていることしか出来ない自身への歯痒さ。私はすぐに背を向けて駆け出したのも束の間。
「ワシらはお主ら人間を傷つけることもなく、この地で静かに過ごしたいだけじゃ」
普段の飄々した声と違いドスを利かせたお母様の声。見張り台に戻り身を乗り出して姿を探しても、やはり見つからない。そして、突然の出来事にお姉様も含めてその場の全ての魔物娘も人も完全に動きを止めていた。
「お主ら人間がこの地を脅かそうとするのであれば‥」
空に向かって放たれた光輝く巨大な魔力の塊。そして、ゆっくりと空を上がり続け‥目映い光を放った直後、その周囲にあった雲を瞬時に全て消し飛ばして、辺りに一条の光が地面へと降り注ぎ‥陽の光がこんなにも美しいものなのかと自身の認識が改められた。恐らく、私を含めてこの場所にいる者の全てがこの一部始終を見ているのだろう。
「これ以上、攻めようとするのであれば‥ワシはこれより、毎日お主らの住まう地の上空に放つぞ。この意味が解らぬわけでもあるまい」
暫くの沈黙。そして…
「退け!!!」
けたたましく響いた声。その場にいた人間は気を失っている者は動ける者が担ぎ一気に退いていった。
それから、間を置いてすぐにお母様やお姉様。お姉様の周りにいた魔物娘や人達が一人も欠くこともなく帰ってきて、辺
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