「ちゃん……てよ‥」
睡眠を妨げるように、どこかで聞いたことがあるような声が微かに聞こえる。きっと‥気のせい。幻聴。身体を揺さぶられたり、声にめげる事なく目を閉じたまま、必死に寝ているフリを装い続けるも、声の主は布団を剥ぎ取るという暴挙に出た。
ほのかな温もりから一転、急激な寒さが身体を襲い、思わず身体を縮こめる。
「お兄ちゃん!!起きてるでしょ!!ねぇ!!」
高く、大きな声が耳に響くと共に身体に重さを感じる。
諦め‥降参に近い感情を胸に、僅かに目を開けて‥声の主、妹の日和が制服姿で腹の上に座ってた‥。それも堂々と‥
「今‥目動いたよね？」
鋭くも的確なつっこみで‥。更に寝たフリをしようものなら、握り拳が振り下ろされれる事は想像に難しくない。
「ああ‥。分かった。分かった。起きる。起きるから。それに重い。だから、まずどいてくれ‥」
「遅刻するからって思って、せっかく起こしてあげたのに、重いなんて酷いよ!!傷付いた！どうしてくれるの!!」
土産屋で見かけるハリセンボン顔負けの膨らんだ顔で僕を見ている。いや‥怒りからトゲの1つや2つは普通に生えているかも知れない。
「遅刻しないように、早く制服に着替えたいから、出ていってくれないか？」
恨めしそうに僕を見詰めたまま、一向に出ていく素振りが見受けられない。
「起こしてくれて、ありがとう。助かりました」
棒読みの挨拶でも、膨らした顔はみるみる普通に戻っていく。そして、一瞬の笑顔を見せるも‥
「誠意が足りない。それに重いって言った‥」
目だけは未だに恨めしそうに見ている。ご機嫌取りのために、いつものように頭を撫でようと手を上げたその途端に耳を頭にくっつけている。
「耳も一緒じゃないとかわいそうだから、ちゃんと撫でてね」
頭も耳も満遍なく撫でながら、時計をチラリと見れば、本当に遅刻する瀬戸際‥。それでも朝から妹とこのやり取り‥。
「着替えたいから、出ていってくれるかな？」
「うん♪♪」
先まであった怒気は完全に陰を潜めて、満面な笑みに変わり、照れで少し赤みを帯始めようとする顔を隠すように背を向けて、ドアノブに手を掛けた所で、
「ありがとう」
尻尾が嬉しそうに揺れ動いた後、大人しく部屋から出ていった。
制服に着替えて、部屋を出て最初に見たのは、待ってましたと言わんばかりの妹の顔。
「ねぇ、お兄ちゃん。この時間だと歩いて行ったら遅刻しちゃうよね？」
危機感とは裏腹に、確信犯にも似たような何かを期待している声。
「それに‥皆勤賞を狙っているのに…」
いや‥日和だけなら、全力疾走すれば間に合うんじやないのか？とつっこみを入れたくなる。
「だから‥自転車。二人乗りで一緒に行こうよ♪♪」
実際の所。僕が遅刻しないようにするには自転車しかない。悪友約2名のどちらかでも見られた場合。後で冷やかされる事は目に見えている。でも背に腹はかえられない。それに迷っている時間もない。
「振り落とされないように、しっかりと掴まっているんだぞ。それと尻尾が後輪に巻き込まれないようにな」
「うん♪尻尾も大丈夫だよ♪♪」
僕の腹に両腕と尻尾で抱えるように回して、貧‥起伏に乏しい胸が背中に押し当てられているような気がする。いや、違う。当たっているのは制服。更には下着も着けている筈だから、直接当てられている訳ではない。朝食を摂る余裕も無かったから、ムダにエネルギーを消費しないでくれ。言い訳とそれに身体のある一点が反応しないようにと祈りつつ‥
「そういえば、かあ……」
言いかけてから、失敗した事を自覚して口を閉じても既に遅く……
「お母さん？部屋に入って見に行った訳じゃないけど、きっと部屋で寝ているんじゃないかな？」
意外だ‥。てっきり何も答えないと思った。それとも気付かないで寝ていたのか？
思い起こせば寝坊の元凶は父と母にあると思う。父は妖狐‥母のご利益か会社の地位は高い。だからこそ出張が多く、家をよく空けている。昨日は久しぶりに帰ってきて、一家団欒を過ごせた。……問題はその夜。深夜。僕の部屋の隣。父と母の部屋から、「中に‥源九郎さんの…熱いのを……私に‥」いつもとは違う、母さんの扇情的な声と共に甲高くも短い声が響いていた。健全な男子高校生が例え親とはいえ、一連のやり取りの声を聞いて安眠できるだろうか？いや‥寝るのは無理だと思う。
それに‥僕の部屋は妹も普通に出入りするのに、丸めたティッシュをゴミ箱に捨てるわけにもいかない。処理できないからこその悶々とした気持ちとそれに丸聞こえの声。その2つが原因で寝ることが出来なかった訳で……眠れたのは、全てが静まり返ってからだった。
……。マズイ思い出したら、反応してきた‥。学校に着くまでに鎮まってほしい。願望に近いものを抱くと共に、安眠していた日和が羨ましい。いや、まて‥「部屋に入
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