本日の出張:社長?からの呼び出し

私が小学校の頃。
母は浮気をして家を出て行ったと聞いた。
『女遊び』はよくないと学んだ。

私が中学生の頃。
父は酒に溺れて飲酒運転で亡くなった。
『酒の飲み過ぎ』はよくないと学んだ。

私が高校生の頃。
祖父は賭博や夜遊びで膨れた借金で首を吊った。
『金の浪費』はよくないと学んだ。

ここまで育ててくれた祖母は私によく言っていた。
『人様に迷惑はかけちゃいけないよ』、
『汗水たらして働くことこそ、正しいことなんだよ』と。


・・・だから私は思ったのだ。

『・・・働けば、いいんだな』
『・・・他にやることないしな』


・・・これが正しいのかどうか、今になってもよくわからない。

ただ、楽しいとか、悲しいとか、そういうことは感じなかった。


〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


「まずは幹部二人。先日の騒ぎを起こしたことに対し、何か申し開きはあるか?」


『ございません。いかなる処罰も甘んじて受け入れます』


休日明け出勤日。
周りに剣や槍で武装した魔物娘兵に囲まれる中、パルン・メルディアの2名は、凄まじいオーラを放つリリムの前で土下座していた。
その二人の後ろでは、サリアとマーリィ、黒田が正座させられており、サリアとマーリィはぎこちない笑顔のままガタガタ震えており、黒田だけがキョトンとしていた。

(・・・サリアさん、あの方はどなたですか?)

(おにー様、ホントに周りの人しか覚えないのはやめた方がいいです。ホントに。あの方は魔王様です。ここのトップです。社長みたいなものです!)

(・・・あぁ、はい、なるほど)

ボソボソと小声でサリアに確認をとった黒田は、納得して魔王『アーリア』を見た。

この世界の魔王。魔王城のトップであり、六芒会議出席者の幹部たちに唯一命令を出す上司。
最高峰の美貌を持つ彼女は今笑ってはおらず、静かに怒るオーラを出しながら幹部二人を見下げていた。

「まずパルン。此度の騒動の原因は貴様の部下が引き金だと聞く。己の部下の話に振り回され我を忘れるとは情けない。減俸とする故、深く反省せよ」

「はい、肝に命じます」

「ならびにメルディア。貴様、最近職権乱用にて深く注意されたのちにこの騒動。反省の色なしと見なされても仕方あるまい。本来なら謹慎を命じられてもおかしくないが、今までの功績を持って情状酌量とし、減俸と、しばらくの間、件の男との交流を慎むことを命ずる」

「・・・はい、了解しました」

「・・・最後に、後ろの三名」

アーリアが目を向けると、サリアとマーリィはピーンと背筋を伸ばし、黒田は小さく「はい」と答えた。

「此度は幹部両名の処罰で止めるつもりであるが、貴公らに責任が一切ないとは言うていない。事情は知らぬが、再び同様の騒動を繰り返すようならば、相応の処罰が降ると思え」

「はひぃ・・・」
「ははははははいわかりましたマーリィわかりましたハイ」
「・・・あぁ、はい」

「・・・(チラッ)」

「・・・護衛兵、並びに親衛隊。部屋から払え。魔王様の命である」

最後に、アーリアが自分の脇に佇む黒いローブを着込み、フードをがっつり被った者に目をやると、その黒ずくめからくぐもった声が発せられた。
その声に応じ、武装した魔物娘たちはきっちりと隊列を組んで扉へと向かう。ガチャリガチャリとなる鎧の音の中、黒田は小さく首を傾げていた。

そして、最後の兵が出て行き、扉がバタンと閉じた瞬間であった。


「・・・もーーーーーーっ!パルンちゃんもメルディアママもなにがあったの!?」

「いやあの・・・すまん・・・それしか言えないんじゃ」
「アーリアちゃん・・・これには私の口から言えない深い事情があるんだけど・・・うん、私には説明できない」

「どゆこと!?私昨日のテレビ見てめっっっちゃびっくりしたんだからね!!?パルンちゃんはなんか吐いてるし、メルディアママはなんか叫び散らしながらそこの人の頭撫で回してるし・・・」

「いや実際に吐いたわけじゃないんじゃが・・・生きてきた常識が覆って脳がオーバーフローしたと言うか、狂い散らかしたというか・・・」
「正気を失っちゃって、とりあえず我が子の頭を撫でないといけない義務感に狩られちゃったの・・・理由は言えないんだけど」

「アタシの城下町のデパートでなにがあったの・・・」

アーリアが二人をいきなり抱き込み、頭や肩をポンポン叩きながら心底心配した顔で話しかけた。
対する二人はバツが悪そうに視線を合わせず、しどろもどろに答える。アーリアはさらに心配そうな顔になってオロオロした。
なお、その様子を見た黒田は目を丸くして驚いていた。

「・・・なんか、一気に人が変わりましたね」

「魔王様は幹部と一部の方々の前ではあのフレンドリーモードです。普段は威厳のあるカリ
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33