『みんなーっ!今日はありがとーーー!!!』
『ワァァァァァァァ!!!』
とある演劇ホールの舞台に立つ青年が、張り裂けんばかりの声でお礼を言うと、観客席から拍手とともに声援が飛んでくる。
それをBGMに、青年が舞台袖にはけると、タオルと水をを持ったプロデューサーが待っていた。
「おつかれ、晃」
「ありがとう、プロデューサー!」
受け取ったタオルでわしわしと頭を拭く『清水 晃』の前で、プロデューサーは手帳を開いた。
「順調に入場者数伸びてるよ。よかったなぁ」
「まだまだ!こんなんまだまだだよ!武道館ライブまで行って、ファンでいっぱいにするくらいにしなきゃ!」
「目標が高いのはいいが、張り切りすぎてバテないか心配だよ俺は」
彼は『AKIRA』という芸名で売り出し始めたアイドルである。元気のいい新人としてメディア業界では少し取り上げられる程度にはなっている。各地で小さなライブをするくらいには名が通っている。
今日は、その地方ライブのひとつだったわけだ。
「明日ってなんか大きめのイベントあったよね?」
「明日は食事会ライブだ。ちょっと名の知れたホテルでやるんだぞ」
「メシ美味い!?」
「・・・食べるのはファンの方々で、お前は食べないぞ」
「えっ・・・」
「おい見るからにテンションダダ下がりするんじゃない。帰りに俺がテキトーに奢ってやるから」
「俺、牛丼がいい!」
「お前プロデューサーの懐舐めてるだろ。ありがとな、そうさせてくれ」
そんなやりとりをしながら、二人は楽屋へと向かった。
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
「じゃ、車回してくるから待っててくれ」
「ほーい」
着替えが終わったあと、ファンの待ち伏せなんてものはなく、会場の裏手でプロデューサーに待つように言われた晃はカバンの中から英単語帳を取り出した。
「・・・え、えんしゅわー・・・とっておく、でー・・・げっと、あうと・・・えーと・・・?」
「『取り出す』だヨー。学生AKIRAクン」
「ふわぁえ!?」
急に声をかけられた晃が情けない声とともにそちらを見ると、ニヤニヤと笑うセイレーンがいた。
「あっ、『ラヴィア』さん!お疲れ様です!」
「そんな畏まらなくてイイよーん」
「ラヴィア。そこでなにしてる?」
「あら、新人くんじゃない」
「・・・ごきげんよう」
ラヴィアと呼ばれたセイレーンの後ろから、ぞろぞろと人虎、稲荷、白蛇が出てきた。それを見た晃は、わたわたと慌てる。
「し、『四獣』の皆さん!!お疲れ様です!!レッスン帰りですか!?」
「あー、まぁ、そんなところだ。君はライブ終わりか?お疲れ様」
「今日ここらへんが賑やかだったのは君のライブがあったからかしら?」
「・・・知らなかった」
「おぉう、まさに眼中になかった発言連発じゃん・・・まー気にするなよー、AKIRAクン」
アイドルグループ『四獣』。
華やかな容姿と魅力が詰まった彼女らは、今や日本では知らぬものはいないトップアイドル。
晃とはもう雲泥の差であり、人々の憧れと羨望の的である。
一部の人はこの会話に棘を感じるだろう。露骨に『どーでもいい』臭が漂う発言をわざわざ連発している以上、『新人いびり』と取られてもおかしくない。
しかし晃はそんなこと思わない子であった。
「はい!今日はいつもより多くの方が来てくれまして!とっても嬉しくて頑張りました!」
目をキラキラさせながら鼻を鳴らしてライブの様子を説明し始める。まるで、授業で先生に褒められた内容を、親に息巻いて報告する子供のようだ。
それを大先輩たちは、ニヤニヤしたり、微笑んだり、興味なさそうに聞いている。
「・・・およ、AKIRAクン、あれ、君のプロデューサーじゃナイ?」
「えっ?」
そのとき、セイレーンが羽で指し示した方に、車に乗ったプロデューサーが待っていた。晃が見たのに気づいたプロデューサーは、自分の腕時計をトントンと指差した。
「ああ!すいません!もう時間が厳しいみたいなんで、もう行きますね!」
「うん、構わないヨ。See you again !」
慌てて晃はプロデューサーの車に乗り込み、ぺこぺこ車の中でお辞儀しながら4人に見送られるのだった。
「プロデューサー!偶然、四獣の皆さんと会っちゃったよ!今日は幸運だな!」
「・・・あぁ、うん。そうだな」
「・・・そういやさ、4人から思い出したんだけど、いつも来てくれてる4人組のファンが今日も来てくださってて、今回ちょっとファンサービスのつもりでウィンクしたりとかしてみて・・・」
楽しそうに語る晃とは対照に、プロデューサーは乾いた笑いを返していた。
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
[グループ名:四匹のメス]
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