本日の業務:昨日作成の会議資料、最終チェック

黒田 史郎。28歳。童貞。

彼はとてつもない社畜体質であった。

中学時代には先輩に言われて部活の後片付けを夕方までかけて一人でやった。
高校時代には先生に言われて手伝いを黙々とやりすぎて夜まで学校にいた。
バイト時代にはヘルプで呼ばれまくって週1休みが珍しいレベル。
そして転りこんだ小さな会社では上司の命でスーパー社畜戦士となって毎日書類と闘っていた。

気づかぬうちに日を過ぎ、月を過ぎ、年を過ぎ。
酸いも甘いも辛いも苦いもなにも嗅がず、労働の味に流されて知らずに育ってしまった。

目にはクマを。
頬にはやつれを。
口癖には「あぁ、はい」を。

そんな傍から見たら『なにが楽しみで生きてんだこいつ』と心配される彼は今・・・


〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


「・・・・・・」
『カリカリカリ・・・カサッ、ペタン』

「・・・・・・」
『カリカリカリ・・・カサッ、ペタン』


『リーンゴーン♪リーンゴーン♪』
『セイレーン放送でーす。お昼の時間ですよー。皆さん、お昼休みですよー』


「・・・・・・」
『カリカリカリ・・・カサッ、ペタン』

「・・・・・・」
『カリカリカリ・・・カサッ、ペタン』



「いや昼じゃと言うとろーがバカタレーーー!!!やすめーーーーーー!!!」



魔王城、庶務関連部署の一室で、上司の胃をギリギリ言わせていた。


〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


「・・・えー、儂からの報告は以上じゃ・・・何か質問がある者は?」

『はい』×5

「じゃろうなー・・・」

魔王城。
円卓を囲んでの幹部たちの会議。
六人の幹部が円卓を囲んで会議をしているので『六芒会議』(魔王旦那命名)と称される会議の場で、パルンは他幹部からの質問責めに会おうとしていた。

「まず、人間を連れてくるのはいいだろうけど、事務職に就職させるってのは初めてだわ。私たちを通さずにやるのはちょっとどうかしら」

魔王城、総括管理部のエキドナ・メルディア。
現魔王の元乳母でもあり、優秀な魔物たちを育てあげてきた彼女は、組織の中に異端児が混じることをまず懸念した。
ちなみにみんなから『母親のような存在』ともされているが、まだ独身である。あと、案外若い。

「確かに知識・能力が突出したものは採用してもいいだろうが、見るに凡庸の極みではないか。されば子を産ませて育てさせるのが筋だろうが」

「・・・私も、同意見だ」

こちらは軍部のツートップ、軍団指揮のドラゴン・リュグレスと、魔王親衛隊のデュラハン・アルトはその本人の才を見て、採用する価値なしと見ているようだ。

「しかも本人は結婚願望どころか女性との交際時点から興味がないとのこと。そのまま城内にいさせておくのは、結婚推奨・交際必須の我々の風紀に違反するでしょう」

「インフラ担当のワタシの発言。インキュバス化していないニンゲンがいるならば、そのニンゲン用の施設・設備の増設が必要。しかし個数は1。そのためにかかるコストとリターンを考えると、不釣り合い。結論、ニンゲンのまま就職は、不要」

風紀・看護関連管理のアヌビス・クリティウス、インフラ担当のオートマトン・A-アルガティオム3型(通称:えいちゃん)も苦言を呈し、5/6が反対を提示していた。

「いやー・・・あのー・・・じゃなー・・・確かに類を見ないし、ぱっと見はメリットないし、色々面倒ごとが付きまとうんじゃが・・・ここに置いてやりたいと言うか、なんというか・・・」

「確かに貴様の部署は庶務関連ではあるから、書類仕事に人員は必要だが、なにもそいつでなければならんという理由はないだろう」

「いやぁ、理由はー、ないんじゃー、けどもー・・・」

「珍事。パルンの言葉選びとイントネーションに安定さ皆無。平時はもっと鬱陶しさと喧騒さを兼ね備えた歯切れの良い発言」

「・・・事情が、あるのか」

アルトの首を傾げながらの発言に、パルンはまだ「いや、事情というかー・・・情というか・・・なんというか・・・」と歯切れの悪い返答を返す。それを聞いていたメルディアが、パンと手を叩いた。

「なら、こうしましょう。ここ数日の、彼の行動を聞かせてちょうだい」

「・・・えっ」

「それはいいですね。その内容から、その者がここに居ていいものか判断材料を探しましょう。書記は私、クリティウスが受け持ちましょう」

「文字での記録はクリティウス。音声記録はワタシ。録音機能の稼働準備、開始」

「いや、あの、ちょっと待っ」

「待たぬ。このように議題として取り上げられているのだ。言い訳は聞かん。事実を述べろパルン」

「・・・公平な、判断を心がける」

「う、う・・・」

「さぁ、パルン。話しなさい。彼・・・クロダの動向を」

5人(4人と1体)に見つめら
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