俺は清掃員のバイトをしている。
公共施設のゴミ収集や、落ち葉、塵などの掃き掃除、
道路に吐き捨てられたガムの黒くなったやつを剥がしたり、
壁の落書きなんかを消したりもしている。
ここ最近、自分達の活動のおかげか、以前に比べて町はとても綺麗になった。
しかし、やはりいまだにポイ捨てや落書きが後を絶たない。
特に落書きはひどいもので、場所を問わず、描ける場所があればどこにでも描かれている。
「掃除する身にもなってほしいよ・・・」
と、ぼやきつつも、今日もトンネルの壁や電車などの高架などに描かれた落書きを消していく。
そのとき、さっき俺が落書きを消したばかりのトンネルの中へと、
今の時代に似合わないローブを着込んだいかにも怪しい人が入っていったことに俺は気づかなかった。
「ふぅー、やっと終わった。やっぱ綺麗になると気分がいいな。」
日も落ち始め、辺りはだんだんと暗くなってきた夕暮れ時。
今日のノルマの範囲の清掃を終えて、掃除道具をまとめて帰路につく。
そのとき、さっき落書きを掃除したトンネルを通ると、
壁に光る文字が目に入った。
「ん?うわ、なんだよこれ?蛍光スプレーか何かか?」
掃除したての壁に書かれていたのは、外国語のような文字で、
今まで見てきた落書きとは雰囲気が違っていた。
怪しげにピンク色に輝き、妙に引き込まれる感覚が襲った。
しかし、せっかく掃除したのにもう落書きをされたという怒りもあり、俺はさっそく掃除に取りかかった。
雑巾に特殊な薬品をスプレーし、落書きを消しにかかる。
しかし、まったく落ちる気配はなく、より一層輝きが増しているように見えた。
「くそっ・・・全然落ちないな・・・」
そうぼやきつつも、掃除をし続けていると。
ピシッ
突然掃除している壁にヒビが入り、思わず作業を止める。
しかし、ヒビはだんだんと広がり続け、まるで人の形ようになった。
バコンッ!!!
「うおわっ?!」
突然目の前の壁から腕が伸びてきて、それを避けた際、
思わずその場に尻餅をついてしまった。
壁から現れたその腕は、ゆっくりとした動きで周りの壁を触り始め、そして壁を押すような動きをし始めた。
すると周りの壁がヒビにそって剥がれ始め、中から髪の長い女性が現れた。
非常にゆっくりとした動作で、自らの体についた壁の一部を払いつつ、こちらを見つめる。
「な、何だよこいつ?!ま、まさか・・・魔物?」
壁を払い落とし、現れたのは女性らしい体つきと褐色の肌。
首、肩、肘、膝などの一部には壁の一部が鎧のように残っており、その肩にはさっき消せなかった落書きが爛々と輝いている。
「・・・」
「うっ・・・」
無言でこちらを見つめる彼女。
「目標捕捉。」
「も、目標って・・・俺のことか?」
「襲います。」
そう言った瞬間、こちらへと歩み寄ってくる彼女。
一歩、また一歩と近づき、腕が伸びてくる。
それに合わせて必死に後ずさるが、
座り込んだままでは向こうのが明らかに速い。
「っ?!」
背中に固い感触。
振り返ればそれは壁だった。
「目標の停止を確認。」
「うわああぁ!」
伸びてくる彼女の腕に、情けなくも悲鳴をあげてしまう。
せめてもの抵抗で、自分を守るように腕を交差させるが、
彼女は気にもせず、交差した両腕ごと俺を捕まえた。
痛いほどに握られているわけではないが、
必死に抜け出そうとしてもビクともしない。
「じっとして。」
「じっとなんてできるか?!は、離せ?!」
「承服できません。」
「うぉ?!」
今度は彼女の空いたもう一方の腕が俺の足の下へと潜り込んだかと思うと、
そのまま軽々と俺は持ち上げられてしまった。
そして、いわゆるお姫様だっこのような体勢に持ち変える。
「お、おろせ!このっ!」
「・・・」
すると、あまりにも俺が暴れるからか知らないが、
彼女は無感情な目でこちらをジッと見つめてきた。
ジー
「な、なんだよ・・・?」
「どうすればあなたを静かにできるのかを考えています。」
「そ、そんなの簡単だろ?俺をおろs」
「承服できません。」
「な、なんだとこの、んむっ?!」
彼女が上半身ごと俺に寄りかかってきたことにより、
彼女の豊満な胸によって俺の顔は埋められてしまった。
しゃべるどころか、息すらできず暴れるが、
だんだんと意識が遠退いていった。
「目標の沈黙を確認」
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