小さい頃から、祖父母の和風な家の作りが大好きだった。
畳張りの床の間、縁側、そして庭。
歴史の教科書に出てくる言葉で言うなら「書院造」。
わびざびのような雰囲気。
建造物に例えるなら銀○寺のような。
そのせいもあってか、将来家を建てるなら、
そういった雰囲気の家を建てたいと思った。
そして、寺社仏閣などを観光するのが大好きだった。
「次はどこに行こうかなぁ・・・」
スマホで「和風建築 観光」で検索しながら、どこかいい場所はないかと探していると。
「ん?築300年を超える伝統的な古民家?今なら拝観料無料?」
検索にヒットした画像を見てみると、
藁葺き屋根の大きな屋敷だった。
例えるならテレビ番組の「全力疾走村」のようなもの。
あるいは、某有名な狼の出るアニメ映画の家のようなものだった。
住所を見てみると、家からもそう遠くはなかった。
「こんな近くにあったなんて盲点だったなぁ。でも、今まで聞いたこともなかったけど・・・」
今の家に住み始めてからそんなに経ったわけではないが、
そんな建物なら普通にその辺を歩いていても気づきそうなのだが?とも思ったし、
何より、ここらのそういった観光場所は全て巡ったものと思っていたのだが。
「まぁ、行ってみるか。拝観料もタダだし、ちょうど明日から連休だしな。」
そんなこんなで、その古民家へと行くこととなった。
当日、古民家へとバスを使ってやってきた。
古民家へと続く道にたたずみ、遠目に見る。
天候は絶好の快晴で、非常に絵になる風景である。
「いやぁいいね、この雰囲気。日本の古き良き姿ってやつかな?」
と、1人満足しながら、さっそく古民家への道を進む。
敷地内に入ってみると、不思議と自分以外の観光の人はおらず、貸切状態であった。
「えっと、ガイドさんとかはいないのかな?」
辺りを見渡してみると、玄関の前に案内用の看板があり、それには、
「ご自由に拝観ください。ただし敷地内の物の持ち出し、破壊等禁ずる。」
とだけ書いてあった。
「ふむ。じゃあ時間の許す限り探索させてもらいますかね。お邪魔しまーす。」
と、俺は玄関からさっそく古民家の中へと踏み込んで行った。
中に入ってみると、非常に自分の中ではドストライクなほどの和風建築であった。
天井には立派な梁があり、居間には囲炉裏。
畳の間は全て襖で仕切られてはいるが、
襖を外せば大部屋へと早変わりな造り。
そして、掛け軸がかかっていたり、
違い棚などがある仏間。
目に入ってくる全てが魅力的で、
思わず時間も忘れて写真を撮りまくっていた。
「いやぁ、素晴らしいなぁ。こういうの堪らないねぇ♪」
と、優越感に浸りつつ、時計を見てみると結構時間が経っていた。
「おっと。そろそろ帰らなきゃな。まぁ、家からも近いし、また来ようかな。できればこういう家に暮らしたいね。」
と、古民家を後にしようとしたその時。
「では、一緒にここに暮らしませんか?」
「っ?!」
突然の声に辺りを見渡すが、誰もいない。
「そ、空耳かな?」
不安になりつつも、気のせいだと自分に言い聞かせ、強引に落ち着こうとしていると、不意に首に冷たい感触が当てられた。
「ひっ?!」
「動かないでください。」
明らかに背後から聞こえる女性の声。
そして、目だけ動かすと、首には刃渡り30cmほどの短刀が当てられていた。
「あ、貴女はい、いったい?」
「私はクノイチと呼ばれる魔物娘です。どうか、お静かに。」
「く、クノイチ?魔物娘?」
「はい。」
「お、俺に何の用で?そ、それより、その物騒なものを離してくれないかな・・・」
「・・・逃げないと約束しますか?」
俺はただただ首を縦に振る。
すると、首からスッと短刀が離れていく。
その瞬間に腰が抜けてしまい、その場にへたりこみつつ、後ろを振り向く。
そこには、漆黒の生地に花柄の模様の入った着物を身に纏い、口はこれまた黒い布で覆い、長い黒髪をポニーテールのように纏めた女性がたたずんでいた。
まさにクノイチと言った見た目であり、
その背中には先端が鈎縄のような尻尾が揺れていた。
『こ、これが魔物娘のクノイチ。初めて見た・・・』
「安心してください。この短刀は模造ですので。」
「そ、それより、お、俺に何の用ですか?」
「はい。実は貴方に一目惚れしてしまいまして。」
「へっ?」
「そう、あれは任務のためにこの町にやってきたばかりの頃・・・」
彼女が言うには、町で俺を見かけて一目惚れし、
忍びらしく、俺のことをコッソリと監視し、
俺の和風建築が好きなことを知り、
この古民家を用意して、俺をおびき寄せたそうだ。
しかも、俺のスマホでしか検索にヒットせず、
俺にしか辿り着けないという風にしているそうだ
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