僕のお姉ちゃんたち

 新堂家において、両親の不在は珍しい事ではなかった。
 というか、むしろ共働きである彼らは家にいる事の方が少ない。週末も例外ではなく。
 お盆や年末年始は流石に休めるが、それでも二日が精々だ。誕生日やクリスマスを家族三人で過ごした事など、数えるほどもない。
 代わりに、それらの日を含めて、彼は頻繁に伯父夫婦の家へ預けられていた。
 自宅からバス一本で行ける距離にある、八城家だ。
 八城家には双子の姉妹がおり、彼女たちは彼にとても良くしてくれた。伯父夫婦も同様に、うちには子供が三人いる、と笑いながら可愛がってくれていた。

      ※

 この日も、そんな一日だった。
 父親は週の頭から出張中で、母親は何かの会議があるらしい。日付が変わる前に帰れるか怪しいと、出がけに言われていた。
 いつものようにバスに乗り、いつものバス停で降りる。学校帰りに訪れる平日と違い、今日から二連休という事もあって、荷物は少し多めだった。
「あーちゃん」
 バスの音が遠ざかったところで、そう声をかけられる。これも、いつもの事だった。
 顔を上げると、視線の先に笑顔で手を振る人物が二人。女性と言うにはやや幼く、少女と言うには大人っぽい。確か十九歳だったはず、と彼は頭の中で確認する。七つ年上なのだから、間違いはないだろう。
 二人は、よく似た顔立ちをしていた。というか、瓜二つだった。
 肩にかかるかどうかというショートカットの髪に、やや垂れた目。右目の下の泣きボクロまで同じだ。身長も同じだと言っていたのを思い出す。体重は知らないが。
 彼女たちは、一卵性の双子なのだ。
 姉の名が、美凪。妹の名が、燐。初対面の人間では、どちらがどちらかは、まず分からない。実の親ですら稀に間違える事があるが、しいて言えば美凪の方が少しだけ料理が上手く、燐の方が少しだけ勉強を教えるのが上手い。
 とはいえ、それも違いと言えるほど大きな差ではなく、彼もそれを根拠に二人を見分けている訳ではなかった。
 では何を、と言われても答えようはない。気がついたら、何となく分かるようになっていたのだ。

 頻繁に顔を合わせているというのに、いつも、この最初の瞬間というのは気まずかった。照れくさいと言い換えてもいいかも知れないが、何かしらの違いがあるような気もする。
 あーちゃん、という物心ついた頃から続く呼び名も一因だろうと、彼は思った。女みたいだという反発心も、しかし本名もまた飛鳥という男女どちらでも違和感のないものでは酷く虚しい。
「……こんにちは」
 ペコリと頭を下げる人見知りしたような飛鳥の態度に、双子は同じように好ましげな微苦笑を浮かべた。
「他人行儀ねー、いつもの事だけど」
「まあ久しぶりだし、分からないでもないけどね」
 腰に手を当てる美凪を宥めるように、燐がそちらに視線を向ける。が、
「先週、来たよ……」
 ボソッと飛鳥が言うと、彼女は気まずげに黙りこんで目を逸らした。それから開き直ったように飛鳥に歩み寄り、
「いいのよ、私は久しぶりだと思ったんだから」
 後ろから彼の身体に腕を回して抱きしめる。
「わ……」
 昔から変わらぬ積極的なスキンシップに、飛鳥は戸惑ったような声を洩らした。顔が赤くなってでもいるのか、美凪がクスクスと笑う。
「それじゃ、行こっか」
 彼女は飛鳥の荷物を手に取り、背後の燐が彼の手を引いて歩き出した。

      ※

 八城家はバス停から十分ほど歩いた閑静な住宅街の、比較的、陽当たりのいい場所にある二階建てだった。
 坂道の途中にあるため、二段ほどの階段を上ってから門を開ける。飛び石の上を歩いて玄関まで行くと、美凪がポケットから鍵を取り出した。それを鍵穴に挿しこむが、
「……あれ?」
 どうやら鍵はかかっていなかったらしく、彼女は怪訝そうな表情で鍵を抜き、ノブを捻る。
「あら、お帰りなさい。丁度よかったわ」
 開いたドアの向こうには、双子を十年ほど成長させたような女性の姿があった。よく双子の姉と誤解されるらしいが、紛れもなく彼女たちの母親である。
 飛鳥にとっては伯母に当たるが、そう呼ぶのが申し訳なく感じるような若々しい外見だった。もっとも当人は全く気にしておらず、むしろ歳を気にして相応の呼び方を執拗に忌避する方がよほど無様、と言って憚らないような女性なのだが。
「どうしたの、母さん。こんな時間に……」
「学生時代の友達が事故に遭ったから、お父さんと一緒にお見舞いに行くために早退してきたのよ」
「あ……そうなんだ」
 少しだけ声のトーンを落として、美凪が道を開けた。彼女に倣って、飛鳥――と、再び背後から腕を回してきていた燐――も脇へ退く。
「ごめんなさいね、飛鳥。せっかく来てもらったのに、構ってあげられないけど……」
「ううん、大丈夫。それより友達
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