年の瀬も迫る十二月二十四日。世間的には、この日はクリスマスイブと呼ばれている。
街にはネオンが輝き、賑やかな音楽の流れる往来にはカップルが溢れる。ケーキ屋は稼ぎ時だと目を血走らせて、怨念めいた何かの籠もったケーキを量産する機械と化し、子供たちはケーキとプレゼント――おまけとして、それを買ってくる父親――を、今か今かと待つのだろう。
とはいえ独り身の僕には、それも関係ない。ただの一日だ。
しいて何か特別な事を挙げるとすれば、今日が忘年会だった事くらいだろうか。とはいえ日が日であるためか、参加者は僕同様、独り身の淋しい奴ばかりだったが。
既に惰性で続いているだけの家庭に帰りを待っていてくれる者もいないらしく、部長はかなり強引に僕らを居酒屋へ連れていった。平の新入社員である僕らに、それを断れる道理もない。
予定のある奴が心底うらやましくはあったけれど、その理由が部長の愚痴に付き合わされなくて済むからというのは、あまりに虚しかった。
どうにか僕が解放されたのは、終電ギリギリになったからだった。このときほど鉄道会社が二十四時間営業ではない事をありがたく思った事はないかも知れないが、乗り遅れる危機感に駆られながら酔いの回った身体で夜道を全力疾走させられたのでは、あまり感謝する気にもなれなかった。
ようやく駅に着く。ここから自宅までの距離は、酷く中途半端だ。
普段ならばバスを使うのだが、今日に限っては歩かざるを得ない。酔い覚ましになると無理やり自分を納得させて、僕は街灯の少ない道をトボトボと歩き出した。
酔いのためか、やはり足元はフラついていた。転ばないように気をつけながら、途中で水でも買っておけばよかったと思う。まあ、そんな余裕はなかったんだけど。
意識がフワフワしていて、危なっかしい。強烈な睡魔に襲われているのか、寒さで気が遠くなっているのか判然としないまま、座ったら最後、朝まで起きない、と頭の隅でおぼろげに思う。この寒さじゃ、永久に起きられなくなる可能性もあるが。
「ん……?」
夕方のニュースで取り上げられる、道端で眠ってしまったサラリーマンみたいにだけはならないよう心がけながら歩いている矢先に、まさにそうなってしまった人物を見つけたのは何の因果か。
誰もいない、車の一台すら走っていない交差点。縁石に腰を下ろし、歩行者用の信号機の支柱にもたれて眠っている人影があった。
(不用心だなぁ……)
そう思いながら目を遣り、僕は驚く。眠っているのは女性だった。
おそらく僕と同じように、彼女も忘年会だったのだろう。或いはただの飲み会かも知れないが、何にせよ酔い潰れているようだった。
とはいえ、それは顔色からは分からない。何せ彼女の種族は、もともと赤いのだから。
ならば何故わかったかといえば、つまるところ彼女を中心に強烈な酒臭さが振り撒かれていたからだ。
頭部には二本の角――アカオニだった。
酔いが回って熱いのか、彼女の服装は、かなりあられもない事になっている。コートはかろうじて袖が通されているだけで、中のシャツもはだけられてブラが覗いていた。脚もだらしなく投げ出され、靴の片方が車道に転がっている。
「……危ないなぁ」
何に対するものだか分からないまま、僕は呟く。女性のナリは、ともすれば強姦された後のようにも見えた。
靴を拾って女性の前へ回ると、ん、と彼女が小さく声を洩らした。
「――っ!?」
僕の心臓が跳ねる。妙な想像をしてしまったせいか、物凄く気まずい。何か寝言でも言っているのか、小さく動く唇が妙に艶めかしく見えた。
「あ、あの……風邪ひきますよ?」
それでも僕は善人ぶった言葉を吐く。女性の肩に手を乗せて軽く揺すってみるのは彼女を起こすためであり、彼女が何をしても起きない事を確認するためでは断じてない。ない――はずだ。
「……起きてください。家、何処です?」
更に揺するが、やりすぎたか、絶妙のバランスで支柱に寄りかかっていた女性の身体が車道側に傾いた。
「うわっ!?」
慌てて僕はしゃがみこみ、彼女を自分の方へ引っ張る。腕の中に収まる相手が変わらぬ寝息を立てているのに、安堵の溜息をついた。
心臓がバクバクいっている。それは、何も驚いたからという理由だけではない。
酔い潰れているせいか、女性の身体は妙に弛緩していた。柔らかく、温かい。不快なほどに高い体温ではなかったが、確かに服がはだけていても寒くはなさそうだった。
「んぅ……」
鼻にかかったような声で小さく呻く女性に、僕は硬直した。
首筋に吐息がかかる。酒臭いだけのはずなのに、妙に甘い。頭が、ぼんやりしてきた。潰れるほど飲んだ彼女の酔いが、僕にまで回ってきたようだった。
いけないと思いながら、僕は女性に顔を近づけていく。彼女は目を覚ま
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