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ギシギシとベッドが軋む。
「あっ……あんっ――やぁ……ぁん! ぃい……やっ、ゃめ――あぁん!」
その軋みに僅かに先んじて、カーテンが引かれた薄暗い部屋に艶のある喘ぎ声が響いていた。それに合わせて、程好いボリュームの白い胸が揺れる。敏感になった身体は、そんな些細な振動すらも快感に変えてしまうらしかった。
屈辱に表情を歪め、苦痛を堪えるように目を瞑り、震える手でシーツを握り締める。自分を貫く動きがピッチを速めた事で、エイリアの顔に焦りと恐怖が浮かんだ。
「嫌っ――おやめなさい! 中は……もう中には出さないでえええええ!」
しかし懇願も虚しく、彼女の言葉が終わるより早く相手の動きが止まる。ビクビクと震え、そのまま、いちばん深い場所でビュルビュルと熱い液体が吐き出されるのを感じた。
「あ……あぁ……。出てる……また……中、に……」
諦めを滲ませた声音で、エイリアは呆然と呟く。もう何度目だろうか――こうして彼に抱かれるのは。
ずるり、と男のモノが引き抜かれ、その感触にすら甘い痺れを走らせながら、彼女はベッドに倒れ伏す。股間にねっとりした液体の感触を覚えるのは、抱かれた回数より多い事だろう。
唇を噛み締めようとするが荒い呼吸がそれを許さず、また、力も入らない。それが悔しくて、エイリアはシーツに強く顔を押しつけた。滲む涙をシーツで拭う。
窺い見れば、先程まで自分を背後から貫いていたエルフィスは、既に着替えを始めていた。僅かに息を荒らげ頬も紅潮しているが、それほど感情の昂りのようなものは感じられない。
いつもの事だった。いつも彼は、自分を事務的に抱くのだ。
もともと表情や感情を表に出す事が少ないエルフィスは、この屋敷の者たちにとっても何を考えているか分かりづらいところがあるらしい。他の男を知らないエイリアも、何となく、それは理解できた。
確かに違う――エルフィスから聞いた限りでは、他の調教師たちは、あくまで商品を仕付けるためである調教にも、個人の欲望を持ちこむのだそうだ。
反面、エルフィス自身は心底から商品を磨き上げる事を目的としているかのように、なるべく私情を排して行為を行う。もちろん生物的な行為である以上、興奮も快感も切り離せるものではないのだろうが。
それでも、その、事後ですら淡々とした態度は、相手をした女性に不安と、もしかしたら落胆を与えるのではないだろうか。ふとそんな事を考えてしまい、エイリアは自己嫌悪に陥る。
「貴方は、何故……」
悔しくて――自分が待ち望んでいた勇者がこんな所に堕ちている事ではなく=Aそこから救い出す事も出来ない自分の無力が悔しくて、囁くようにエイリアは声を洩らした。再び涙が滲み、唇を噛む。
「言わなかったっけ? 俺は――今は、ここで生きるしかないんだって」
記憶もなく、行き場もなく、そのための路銀もない。だから、ここにいる――ここにいる以上は、ここの仕事をせざるを得ない。それは聞いていたが。
「落ち着いたら風呂にする? それとも、ひと眠りする?」
一瞥だけをくれ、エルフィスは立ち上がる。素肌に羽織っただけのシャツのボタンを止める彼へ、
「……お湯をいただきます」
前を隠して起き上がったエイリアは、俯いて答えた。
娯楽の少ない天界に、それでも誰もが興味を示すものがあるとしたら、それは勇者と守護天使のロマンスだろう。
エイリアもまた、そういった物語を聞いて育った。幼い想像に赤くなったり、友人たちと盛り上がったり。
いつか自分が下界へ降臨し、神託を受けた勇者と契約して、その勇者がもし契約以上の意味で自分を認めさせたら――そのときは捧げようと思っていた。そんな憧れを抱いていた。
こんな形で奪われる事など考えてもいなかった。
悪循環、という言葉を覚えたのがいつかは分からない。記憶がないから分からないし、記憶がないのに憶えている理由も分からなかった。
とにかく悪循環だ、とエルフィスはモップで床を擦りながら思っていた。
この屋敷での自分の仕事は、掃除、洗濯、水汲みに食事の用意。もちろん全部ひとりでやる訳ではないが、掃除に関しては不精な者が多いため、特に共有スペースの掃除は怠れなかった。
そこに調教師としての練習が加わった事で、それらが万全に行えなくなっているのだ。有り体に言うなら、忙しい。
商品の質は環境によっても変わるだろうなどと余計な気を回して、自分の首を絞める形になったのも痛かった。奴隷たちを甘やかしすぎているというのは、こういうところなのかも知れないと思う。
手を止め、溜息。立てたモップの先端に両手を重ね、その上に顎を乗せた。
見回す――奴隷棟の共有スペースには、もうゴミらしいものは見当たらない。
こんなもんかな、と思っていると、先程
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