近頃、リーズが生意気になってきている。
居候の自覚はあるらしく、よく手伝いを申し出てくるのだが、調子に乗っているのか失敗をする事が増えていた。
例えば食後。
最近の彼はアタシの分の食器も一緒に洗ってくれるのだが、不注意で割ってしまう事も少なくない。
森へ木の実を採りに行ったときも、そうだった。
木登りは得意だと言うのでやらせてみたら、欲張って両手いっぱいに抱えた結果、足を滑らせて木から落ちた。
何となく予想できていたアタシが枝の下で待機していたから大事には至らなかったものの、下手をすれば頭から地面に叩きつけられていただろう。勿論、採った果実は大半が食べられなくなってしまった。
てな感じの事を知り合いのドリアードに愚痴ったら、彼女に失笑された。
「馬鹿ね……察してあげなさいよ。小さくても男の子なんだから、女の前で格好つけたがるのは当然じゃない」
「ああ? 何のために」
木の根本に寄りかかって座っていたアタシは、枝を見上げる。
「要するに、役に立つ事をアピールしてるのよ。褒めてほしいんじゃないかしら?」
「……結果も出てねえ奴を、どうやって褒めろってんだよ。つけ上がるだけだろ」
半眼になって答えると、枝の上に俯せになっていた彼女は呆れたように嘆息した。
「……企業戦士か」
ボソッと呟く。
「その子、まだ小さいんでしょ? だったら結果が出ないのなんか仕方ないわ。今は自発的に手伝おうとしてる事を評価してあげる時期よ」
「そんなもんかね……」
妙に自信ありげに断言する彼女から視線を下ろし、アタシはガシガシと頭を掻く。
「つーか、そこまで言うなら、お前が引き取ってくれないか? あいつ」
「嫌よ。安全圏から好き勝手な事を言える、今の立場を捨てるつもりはないわ」
クスクス笑いながら、彼女は、しれっと言う。
「……そうだよな。そういう奴だったよな、お前」
「そもそも拾ったのは貴女でしょう? 面倒なら最初から拾わなければよかったんだし、捨てるなら捨てるで、貴女の責任で捨てなさい。そうして、せめて恨まれてやるのが最後に貴女が出来る事じゃないかしら?」
たおやかな笑みのまま突きつけられる刃のような言葉は、誇張抜きで耳が痛かった。
「っせーな、言ってみただけだ」
「ええ、分かってるわ」
アタシが舌打ちすると、彼女は委細承知しているとばかりに楽しそうな笑顔になる。昔から、そうだった。何故か彼女には勝てる気がしない。
ムカつくので、今度、彼女が留守のときに木の幹に頭突きをかましてやろうと思った。
それでも、生意気になってきているというのは、気を許してきているという事でもあるのだろう。
アタシにも、それくらいは理解できていた。
晴れる事が多い今の時期にも、時々は雨が降る。
今日に限って言えば、滅多に見ないくらいに大きな雨雲が上空を覆っていた。
滝のように降る雨の合間に空が光り、走る稲妻は何者かが空を砕こうとしているかのようだ。洞窟内は暗く、時おり飛びこんでくる閃光は目に痛かった。
こんな日は寝てしまうに限る。
そう思ってアタシは敷布の上に寝転がっているのだが、一向に寝つけずにいた。程よく眠気が訪れているのに欠伸を噛み殺すばかりな理由は、ひとえに反対側の壁際で膝を抱えている者の存在ゆえだ。
リーズは腹に響くような重低音が聞こえないように両手で耳を塞ぎ、空が光る度にギュッと目を瞑っている。なまじ洞窟内の空気の流れが殆ど止まっているだけに、彼の震えがこちらまで伝わって来るようだった。
「……雷ごときに、いつまでビビってんだよ」
舌打ちと嘆息の合わせ技で苛立ちを紛らわせ、諦めてアタシは声をかける。
「こっち来い。いつまでもそうされてたら、アタシが寝られねえ」
「でも――」
逡巡する彼の言葉を遮って、
「いいから、来い!」
もう一度、先程より強く言った。
アタシが横へずれて場所を開けると、リーズは、おずおずと隣へやって来た。
「ちゃんと毛布かけろよ? また腹壊すぞ」
そう。アタシが何より驚いたのは、子供という生き物の脆さだった。
特に傷んでいる訳でもないものを食べて腹を壊すし、風邪でもないのに突然、熱を出す。その度に、普段は食べないような消化の良いものを用意したり、つきっきりで看病をしたりと、アタシの自由は著しく制限されるのだ。
ほんと、早くどっか行ってくれよ――と思わずにはいられない。
腕枕をし、肩まで毛布をかけてやると、リーズはキュッとくっついてきた。子供特有の高い体温が伝わってくる。
そのままアタシの胸に顔をうずめるようにしていると、やがて彼は、すうすうとあどけない寝息を立て始めた。
「……スケベ」
その寝顔を眺めながら、アタシはボソッと呟く。いつの間にか口角が上がっている事には
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