「…つまりはね、
君が僕の代わりに社長をやるか、仕事を失うかの2択だよ」
田舎の織物工房。
道路挟んで向かい側にある事務所に呼び付けられた俺は、社長からとんでもない宣告を受けた。
「わ、わかってないなー、社長も。
俺が現場やった方が早いですよ?」
「だが、社長が居なくては、会社は潰れてしまうんだ。
銀行とやり取りが出来なくなってしまうからね。
誰かが社長をやらなくてはならない。
そこは分かっているよね?」
「だから!
社長の坊やにやらせればいいでしょ!」
「お前が! 僕の弟を追い出したから!
……あいつは会社を継ぎたくないと言っているんだよ」
社長は珍しく俺に対して声を上げた。
歯痒いことに、俺が工房長にいじめ嫌がらせを行った証拠は、社長の息子がしっかり残している。
…勿論、他のやつもやっているため、俺だけが悪いわけではない。
「…君がが社長を継がないなら、今年度から会社を畳む方向で動くことにするよ」
「じ、じゃあ!
ナガトに社長をやらせるのはどうでしょう!
あいつは大卒でしょう!?」
「入社1年目の後輩に社長をやらせる社会人がどこにいるんだい?
それに、ナガト君は個人的な恩義ゆえにここで働いてくれているけど、長居はしないという話だよ。
国立大卒の子をこんな小さな工房に閉じ込めるなんてあまりに可哀想だ」
「ああもう!
社長になっても給料はさほど上がらないんでしょう?
そんなんじゃやる気でないですわ!」
「ではなぜ、僕の弟が去った後、工房長に立候補しなかったんだい?
後輩に押し付けるような真似をしたんだい?
給料は上げると告知していたはずだけど?」
「それは…!
たったの2万円しか給料が上がらないなら、管理職なんてやる意味がないじゃないですか!
この物価高の世の中で管理職をやらせるなら、もっと給料を上げるべきでしょう!?」
「昇給しても給料を上げられずボーナスも出せないのは、君たちが『作れなくなったものを再度作れるようにしろ』『クオリティを元に戻せ』という僕の命令を、6年間ずっと無視し続けているからだね。
商品の種類も質も落ちたとなれば、そりゃあ売り上げも減るさ。
そんな状態で、給料なんて上げられるわけないじゃないか」
はあ!? ふざけるな!
人のせいかよ!?
「どんなにやる気がでなくとも、誰かが管理職をやらなくてはいけないんだよ。
結婚して家庭も持っていた僕とは違い、40歳で独身の君には時間にもお金にも余裕があるだろう?
結婚願望もない君には、うってつけじゃないかな?」
…コイツ。
いつもは俺の言いなりなのに、なんで今日に限ってこんなに喧嘩腰なんだ。
「やりません。
俺は副工房長です。
絶対に、社長なんてやりません!」
そう、いつもなら俺がこう強気に出るだけで、すぐに萎縮するのだ。
それがこの会社の社長なのだ。
「よし分かった。
2年後には会社をたたむことを目処に、今年度からは事業を少しずつ縮小していく方向で経営しよう。
皆にはきっちり退職金を支払いたいからね」
しかし、今日は無駄だったようだ。
「ま、待ってください!
次の社長を探せばいいんでしょう!?」
「だから、君が社長をやるんだ。
それ以外は認めないよ」
ふざけやがって。
ただえさえ不景気でどこも経営の苦しい今の世の中、社長なんて罰ゲーム以外の何者でもないじゃないか。
俺には副工房長として、社長や工房長に「アドバイス」する立場が一番似合っているんだ。
それこそが従業員の中で一番長く勤めている人間の務めだろうがコノヤロー…
「…ところで、前から気になっていたんだけど、副工房長ってなんのことなんだい?
工房長はともかく、副工房長なんてそんな役職はないし、僕も任命した覚えはないよ?」
「俺が今の従業員の中で一番長くこの会社に勤めているからですよ!
管理職なんかやるよりも、俺は現場で働いている方が一番ちょうどいいんです!」
「君って、自分の現場作業ばかりだよね。
備品の購入なり後輩の技術継承なり、先輩らしいことを何か一つでもしているかい?
ここ10年間、いや、下手したらこの会社にやってきた時から仕事内容が全く変わっていないじゃないかい?」
「現場では『神の手』を必要としているんです!
だから仕方ないんです!」
「その技術は、僕の弟から継いだものだよね?
僕の弟が君に教えたのと同じように、他の人に教えることは出来ないかい?」
「ふざけるな!
…クソっ!
社長が馬鹿過ぎて、この会社マジで終わってるわ!」
俺は立ち上がり、客室の扉を蹴り開けた。
「そうかそうか。
ならば今日の夕礼で早速宣言させてもらうよ。
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