刀工と店主

「アレク・・私はね、
私の打った剣達がここへ帰ってくるとは思ってもいなかったの。
大抵は切れなくなったら下取りに出されるか棄てられる。
でも、この子達は帰ってきた。
それは私にとってすごく嬉しいことなの」
サイクロプスの打った刀剣といえど、
整備も手入れもされなければいつかは切れなくなる。

そんな毎日に嫌気が差して、
剣を作るのを辞めたサイクロプスに、ある日男が現れた。
「この剣はあんたの銘か?あんたの剣ならあんたが打ち直してくれや」
そう言い放った男は数本の剣を彼女に寄越し、
「10日後に引取に来る。商品にするからそこん所考えてな」
と、言うなり自分はさっさと出て行った。

「それ、リン?本当に?」
ヘレネの話がまるで信じられないといわんばかりに疑うアレク。
一方のヘレネは大真面目だ。
「あのリンという人はね、言ってみればすごくストイックな商人なのよ。
自分の売る商品が品質に納得いかなきゃ絶対売らないって。
──偏屈だけど」

リンの店の商品はどれも高額だ。
ものによっては桁が一つ違う物もある。
が、アレクの知る限りであの店の客は必ず口をそろえてこう言う。
「こんな名品がこんな値段だったら安いものだ」と。
そんな事は知らずに一番安い剣を買った。
よく酷使に耐える剣だった。
まだ持つ、まだ使える。
そんな考えが甘かったのだろう。

「そんなに落ち込まなくてもほら、元通りになったよ?」
打ち上がった剣はまさに新品同様だった。
アレク愛用のあの剣の姿そのままに、刃筋も綺麗に整っている。
なにより真っ二つになったはずなのに、
どこでどう直したのか全く解らない。
まさしくサイクロプスの技術の賜物である。

「お代はいらないわ、もう貰っているもの」
財布から代金を出そうとしたアレクをそっと制するヘレネ。
「えっ、でも・・」
そう言うとヘレネは紹介状をアレクに見せる。


「この馬鹿娘の剣を売った俺に責任がある。
今回の打ち直しの代金は俺に請求しろ。
壊したのは俺だし、そいつにはいい勉強だ」


いかにもリンらしいでしょ、とヘレネが言った。
10/06/20 21:45更新 / 市川 真夜

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