客と刀工

「・・そう、それは大変だったのね」
街から少し離れた所にある工房に彼女はいた。
サイクロプスの女性──ヘレネが出した紅茶を
半べそかきながら飲む彼女。
「いっつもリンの奴、私をいじめるんだ・・」
「アレクは優しい娘だから、
きっとちょっかいを出したいだけなのかも?」
アレクと呼ばれた彼女──
アレクシスは出されたクッキーを喉に詰まらせて白黒している。
「んー!んー!」
「あらあら・・」
げほげほとむせながら、ヘレネの言葉を心の中で繰り返す。
(ちょっかいにしてはいつもいつもひどくないかなぁ・・)

「でもさぁ、何で私の剣を壊すかなぁ?」
鎚を振るうヘレネに言うわけでもなく、独り言のようにぼやく。
「こんなになるまで剣を酷使したアレクもアレクよ?」
ヘレネの耳にはしっかり聞こえていたらしく、
専門職としての手厳しい評価が返ってきた。
「私が打った剣をここまで使ってくれるのは嬉しいけど、
いくら何でも最低限の手入れくらいはして欲しいわ」

ここしばらく多忙だった・・なんていうのは言い訳にしかならない。
実際、「仕事中」に獲物が壊れてしまっては元も子も、
自分の命も危ない。
そんな事は百も承知だったのだが・・。

「ねぇ、ヘレネ?」
「何かしら?」
「リンはいつ私の剣を見たんだろう?」
そういうとアレクはティーカップに視線を落とす。
「多分、アレクが彼の店でこの剣を買った時からの記録でも
つけているんじゃあないかしら?」
まさか、とアレクが否定する。
彼女の知る限り、あのリンと名乗る男は
金勘定と客いじりが趣味の手抜き男にしか見えないのだ。
時折見せる珍品や一品が面白くて
ちょくちょく足を運んで入るのだが──。

「私が知る限り、
リンは自分の売った物に対しては常に気を配っているみたいよ。
私の所にも何人か冒険者達が来て、
刀剣の鍛え直しを依頼していったもの」
ヘレネが差した先には、さまざまな意匠が施された
幾多の獲物が壁にもたれている。
柄や装飾は違えど、刀身は紛れも無くヘレネの作品達ばかりだ。
10/06/20 21:44更新 / 市川 真夜

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