店主と客

人々が行き交う大通りを一つ隔てた裏通り、
そこは表には出しにくい商品、趣味嗜好、そういった
少し後ろめたい方向性のモノが多く集まるもう一つの「顔」。
その裏通りでも少し外れた所に、その店はあった。

「リン、今日は何か面白い物が入ったんだって?」
一人の客がカウンターに肘をもたれて、興味深そうに店主に問う。
リンと呼ばれた店主は不敵な笑みを浮かべながら
「面白い・・かもだ」
と返す。
「この店のモノはどれも面白いモノだらけだからな。
で、今度は何だ?早く見せてくれ!」
客がせっつく。
ジャキン、と何かが動いた音と同時に店主が尋ねた。
「それよりお前さん、剣が壊れてもいいか?」
「え?剣?」
剣で何をさせようというのか。客が自前の剣を抜くと──

バキン!

店主の振るった「商品」によって、
客の剣が中ほどから無残に破壊される。
「えっ!?」
折れた剣をまじまじと見つめる客と、
依然不敵な笑みを浮かべる店主。
「リン!今何をしたんだ?魔法か?」
「いいや、ただの金属棒さ、小細工付きの」
そう言うと左手に構えた握り拳大の金属棒を見せる。
そして、そのまま腕を明後日の方向に振ると
金属棒が延びてショート・ソード程度の大きさになった。

「こいつで力任せに叩いただけなんだが・・随分脆いな?」
店主は悪びれもせずヘラヘラとしている。
「一体どういう腕力しているんだお前は!」
一方いきなり愛用の一振りを壊された客にしてみれば
たまったものではない。
冒険者を経験した者ならば、「剣が無い」ということが
明日からの仕事にも、生活諸々にも支障が出るのは
火を見るより明らかだ。

「腕力じゃねぇ、剣が限界だっただけだ。
紹介状を書いてやるから、ヘレネの所で打ち直して貰え」
「リン!」
雑な字で書かれた紹介状を突きつけられた客は激昂する。
が、有無を言わせず店主は言い放つ。
「ガタの来てる刃物担いだリザードマン、
お前ならそんなヤツを見てどう思うよ?
仕事の出来るヤツだと思うか?相棒に出来るか?
いいから出直して来い」

ぐうの音も出ない客──リザードマンの彼女は
怒る事も嘆く事も出来ずに立ち尽くすしかない。
「リン・・、私は・・やはり未熟者なのか?」
彼女はぼろぼろと大粒の涙を流し始めると、
「馬ァー鹿、愚痴はヘレネん所でこぼせ。
ここは小娘がベロベロ泣く所じゃねぇよ」
店主がさらに追い討ちをかけた。

「うっ・・うーッ!」
紹介状と折れた剣を抱き抱えて店から飛び出すリザードマン。
それを横目で見ながら店主がつぶやく。
「未熟者なんて生意気言ってんじゃねぇ・・」
10/06/20 12:27更新 / 市川 真夜

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