立場と手段

「私ぁね、この街をここまで大きくするのに随分苦労したよ」
ローファーが腕を捲くると、大きな傷跡が見えた。
「時には実力行使をする時もあった。魔物娘相手にね」
「それ、どういう──」
ローファーが黙って壁にかけられた一枚の絵を指差す。
それは絵ではなく、昔の街の地図だった。

「この街の大半はジャイアントアントが作った。
それを我々多数の人間が、魔法と錬金術で奪い取ったんだよ」
ひどく歪んだ顔のローファー。
「後で聞かされた話だが、その魔法具や武器の出所は
全部俺の店からなんだそうだ」
リンが無表情で付け加える。

「アレク、お前がどう思っているかは知らないけどな、
俺は金さえ出せば誰にでも何でも売る。
商売というのはそういうものなんだ・・当然だろう?」
「だからってそんな物の為に売らなくても!」
アレクが今ここで激昂した所で何も変わらない。
それでも叫ばずにはいられない。
「今回の件については、たまたま俺が思うことあって
親魔物勢に優位に働いただけだ。その次の事はわからないしな」

「思うこと?それは先の話からは見えなかったがね?」
リンの発言にローファーが食いつく。
「ローファー、お前の耳にも入っているだろうが。
近々教会の精鋭が、中央から国境付近の魔物達を一掃するって話」
「ああ、聞いているよ。お陰でここの街がまた潤いそうだ」
ローファーが言うには、
教会の一行は必ず高い宿屋や飯屋を全室貸切にしてしまうのだそうだ。
流石は金持ちの教会、やる事が違う。

「人間相手にせこせこ小物を売り買いするよりか、
魔物娘相手に商売していた方がずっと儲かるみたいでな。
ローファー、お前だって魔物娘特製のナントカって商品は弱いだろ?」
アルラウネの蜜やハニービーの蜂蜜、ホルスタウロスのミルクといった
生活用品からサイクロプスの鍛えた武具、マーメイドの血──。
人間だけでは手に入らないレアアイテムを魔物娘が供給する。

その橋渡しなら、確実に儲かる。
実際は、橋渡しになる前に搾り取られるか、
客の一人と逃避行になってしまうのが常だが。
「ホルスタウロス達の集落やアルラウネのコロニーまで
討伐対象なんて聞いたら、金をどぶに捨てるようなもんだ。
──俺にはそれが許せん」
「それでわざと水害を起こして魔物娘を救助しようって?」
ローファーがニヤリと笑う。

「カビ臭い地下牢で鎖に繋がれたホルスタウロスが美味いミルクを出すか?
錬金術まみれの薬漬けになった地面でアルラウネが高品質な蜜を出すか?
判っていないんだよ、あの馬鹿達は」
あくまで商品として扱うリン。
「でも、彼女達の気持ちはどうなの?」
「感謝の気持ちを持てば万々歳、憎い人間がと思われるのが普通だろうな」
アレクの問いにリンは返す。
「それじゃあただの骨折り損じゃない?」

「その為の日頃の行いだ」
リンは相手が人間だろうと魔物娘だろうと、一切隔たりなく接する。
その為か、出入りする魔物娘達からは悪い話を聞かない。
適正な価格で買い取り、適正な価格で売る。
相手が誰だからと値踏みしたりふっ掛けたりもしない。
ただ、それだけなのに。
10/08/02 01:11更新 / 市川 真夜

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