剣士と政界

「──この・・ッ!言わせておけば・・っ!」
剣に手をかけるアレクだが、呪符で封印された愛剣はびくともしない。
「ぐぬっ・・!」

「・・ローファー、商売の話をしたいんだが」
流れを断ち切るようなリンの声。
ローファーも調子が過ぎたのか、ゴホンと咳払いをして誤魔化す。
それを合図としたリンは、鞄の中から様々な資料や書類を
ローファーのデスクに並べてゆく。

「ローファー幹事長より治水工事の全権委任の権限を戴きに来た。
工期と経費は書簡の通りだ。人駆によっては工期を短縮することもできる」
「それは面白い。商人リン氏の意見を拝聴しよう」
リンの即席プレゼンテーションが始まる。
下品な顔のローファーも、神妙な顔つきになっている。

「・・以下のように、
この流域を護岸工事する事で現在の浸水ルートは80%削減できる。
残り20%についてはこちらの資料を参照し・・」
アレクも手渡された資料を見るが、さっぱり判らない。
しばらく討議したリンとローファーの二人は、一服しないかと休憩に入る。

再び葉巻に火を灯すローファー。
「リンよ、随分大胆な方法を使うようになったな?」
煙が直接及ばないテーブルで寛いでいるリンに問いかける。
「俺もそろそろ我慢の限界だからな」
リンの向かいで茶を飲むアレク。リンの過去が気になって仕方が無い。
「ローファー幹事長、貴方は一体リンとどういう関係?」
アレクの思わぬ方向からの問いに一瞬固まり、盛大に笑い出すローファー。

「アレクちゃんよ、私がリンのような商売人に見えるかね?」
「いいや、全く。どちらかといえば悪徳政治家だな」
歯に衣着せぬ物言いでローファーに切り返すアレク。
その返しが気に入ったのか、再びぶひゃひゃと笑い出すローファー。
「アレクちゃんはトークが上手いなぁ、悪徳政治家か・・!
いかにも悪徳政治家だがなひゃっひゃっひゃ・・!」
「ローファーは、この国の議員や貴族達とのコネが異様に強い奴でな。
余所の国の俺が、何かをしたかったらこいつの所にいく訳さ」
アレクとローファーのやりとりを見ていたリンが入る。

「そういう事だよ、アレクちゃん?
ついでにこの絵画や彫像は完全に私の趣味。
アレクちゃんみたいなナマモノは・・こちらからパスだね」
喜ぶべきか、悲しむべきか。
尊厳を少なからず傷つけられた気がするアレクだが、
このおぞましい物達と比べられた事の方がショックだ。

「さてリン、話を戻そうか?」
再び小難しい議論をする二人をよそに、窓の外を眺めるアレク。
そこには、祭りの日でも見たことも無い数の人間がひしめき合っていた。
大きな商店がいくつもあり、隙間には露店が並び、そこを人が行き交う。
いったい、どれだけの物や金が動いているのだろう。
ほう、としばらく窓の下の光景を眺めていた。

「すごいだろう?」
不意に後ろからかけられた声に振り向くと、
粗方片付いた資料を整理している二人がアレクを見ている。
10/07/13 21:54更新 / 市川 真夜

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