剣士と護衛

一方の反魔物勢国境付近では、予想通りの大惨事になっていた。
大雨で川が氾濫したのか、付近の街道をそのまま通り道にして
内地まで浸水してきたのだ。

床上浸水など経験した覚えの無い住人や兵士達が
夜中にもかかわらず、雨の中右往左往している。
その一角にある宿屋の2階に、リンとアレクがいた。
「威力は上々、結果は想像以上。天災って怖いねぇ」
「偶然にしては出来すぎだと思うんだけど」
アレクの指摘にリンは涼しい顔で返す。
「俺がこんな大洪水を起こせる魔法を使えたら、
もっと有効活用するがね」
あくまで災害は災害である。

前もって用意していたティーセットで寛ぎながら、
窓の外での珍騒動を見物するアレクとリン。
「脅威は魔物娘達だけじゃあないんだけどね・・」
リンの独り言にアレクが突っ込む。
「一番怖いのは人間ってこと?」
「さあ、どうだか?・・明日もあるから、そろそろ部屋に戻りな」
アレクが別室へ行くのを見送ると、リンもティーセットを片付け
下階からの喧騒を子守唄にモゾモゾとベッドに潜る。

翌朝、リンは戸を激しく叩く音で起こされた。
宿屋の主人が昨日の惨事を説明し、
何とか代金を払って欲しいとせがむ。
一夜のうちにこんな状態になったら、
知らない人間ならば誰だって逃げ出すだろう。
朝食分の代金も含めて多めに宿泊料を渡すと、
主人は何度も礼を言った。
ここに天災の張本人がいますよ、なんて言えないけれど。

「何か、昨日と全然違うね」
人間の姿に偽装したアレクがリンに言う。
道中は何があるかわからないから、とアレクに護衛を依頼したのだが
「うん、いいよ」の二つ返事で快諾されてしまった。
当のアレクが面倒ではないというので
気にしないようにしているものの、
本職は放っておいていいのだろうか?

「あれだけの濁流だからなぁ、
川沿いの建物は軒並み水にさらわれただろうな」
他愛の無い会話をしながら進んでいくと、兵士が数名屯している。
どうやらこの災害で火事場泥棒等が多発したらしく、
緊急で検問を行っているとのことだ。

「お前達、名前は?」
くたびれた兵士の質問。
「俺は隣の国の商人でリン。
こっちは護衛をしてもらっているアレクシスだ」
「女に護衛?普通逆だろう?」
嫌な笑みを浮かべながら、やけに疑ってかかる兵士達。

取引証明と身分証明、それから随伴証明といった
一式の正式書類を見せるも、なおも兵士達はニヤニヤとしている。
「あー、これじゃあ判らないからさ、ちょっとこっち来て貰おうか?
女はこっちでお前はあっちだ」
どうしてもアレクにちょっかいを出したいらしい。

リンは必要な書類を仕舞うと、兵士の促した掘っ立て小屋に向かう。
人の姿とはいえリザードマンの戦士。
あの程度の兵士なら何かあっても一発だろう。
・・案の定、男達の情けない悲鳴が二・三聞こえてきた。
「お前ら・・さては強盗だな!?」
「いい根性しているなァ?」
一方的に犯罪者扱いされるリンとアレク。

「・・何をしたんだ?」
リンが聞くと、いかにも当然の如く
「つまらないモノを口の中に入れさせようとしたからな、
とりあえず蹴り上げておいた」
ああ、それで一人足りないのか。
それにしても、こっちの国の兵士は訓練も士気も
野放し状態らしい。
構えもばらばら、しかも隙だらけ。

「アレク、くれぐれも問題にならない程度に頼むぞ」
「それは難しいな」
リンに剣を預け、素手で兵士数名と向かい合う。
「この女ァ・・ナメやがって!」
二人同時に切りかかってくるが、それよりも早く
奥にいた兵士を殴り飛ばす。
振り向く頃にはそれぞれ肘と膝が顔にめり込み、
一瞬でケリが付いてしまった。
10/07/08 20:08更新 / 市川 真夜

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