小鬼と店主

「ふぅ〜・・流石に転送を繰り返すと疲れるの」
「悪いな、こっちの面倒につき合わせて」
リンの店──の奥にある、小さな居間で茶を飲むユーリア。
その奥で放心状態になっているライザ、そして自分の茶を淹れるリン。

「なあ、ユーリア」
「何じゃ?」
リンはユーリアのいる座卓の正面に座る。
「俺が見るに、あれだけの火勢を出すには相当な魔力が必要だと思う。
・・俺には魔法がわからないがな」
「そうじゃのう?」
「そこで魔法と魔術のプロに聞くわけだが、
あれだけの建物をあんな短時間で灰にするには
どれだけの魔力がいるんだ?」

これは意外といった顔をするユーリア。少し考え、
「そうじゃな・・熟練した魔法使いが人間なら3〜4人、
うちの魔女達なら2人でお釣りが来るくらいかの?」
「魔力を持たない奴が魔法具を使うとしたら?」
「そりゃ無理じゃな」
反魔物勢には優秀な人間の魔法使いが多いと聞く。
魔物娘達も高い魔力を持ってはいるが、
人間の生み出した攻撃的な魔法とは少し方向性が違う。

「錬金術っていう線もあるか?」
リンは魔法使いよりも、むしろ錬金術師を怪しんでいた。
理由は単純、「自分でも出来るから」だ。
──例えば、揮発性の油に鉄の粉を混ぜた揚げ油と
洗剤を壷の中に注ぎ、加熱する。
そこに太目の紐を浸して火を点け、目標に投げ込む。
「あちらの世界」でも出来る簡単な火炎瓶だ。

「錬金術師のう・・流石にわからん」
中には錬金術も扱う魔物もいるが、
元々魔法が使えない人間達の技術なのだから
ユーリアが詳しくないのも当たり前な話だろう。



「さて、儂はそろそろ帰ろうかの」
「ん、色々悪いな」
お互い様じゃと言いながら転送されてゆくユーリアを見送り、
リンは残ったライザをどうするかと考える。
「ライザ?お前はこれからどうする?」
「・・どう゛じよ゛う゛?」
案の定、べろべろに泣いている。
「私・・今回の商売に全部かけたから何にも残っていないんだ・・
ねぇリン、私どうしよう?」
「俺に聞くな、俺にもわかんねぇ」
とりあえずそのぐちゃぐちゃになった顔と煤で汚れた体を洗って来い、と
風呂場へ追いやり、すっかりぬるくなった茶を取る。

「金を貸すのは容易いんだが・・」
風呂場から水音がする。やれやれ、少しは落ち着いたか。
居間から店内を見渡すと、カウンターの向こうには
雑多に並べられた商品達がある。

これ全部燃やされたら、俺も正気じゃいられねぇよな・・
立場は違えど同じ商人。商品がお釈迦になった時の絶望感は
リンも味わったことがある。
あの時の俺にはまだ運があったが、今回の件はライザにも非があるし──

そんな事を考えているうちに、後ろから声がした。
「お風呂・・あんがと」
ライザの声なのはわかっているが、リンは決して振り向かない。
相手は全裸、或いはタオルのみな格好の年頃の娘だ。
振り向いてライザを見るのは、道徳的に問題がある。

「お前さんの背丈に合いそうな衣服はそこに出しておいたから、
湯冷めする前にとっとと着ちまいな。・・ツケでいいから」
店のほうを見たままリンが言う。
ありがとう、とやけにしおらしいライザ。
ゴブリン族はどんな時でも元気だなんて、誰が言ったんだ?

「ねえ、リン」
「何だ」
「・・私を、抱いて」
リンの口から盛大に茶が吹き飛ばされた。

「風呂場で色々考えたんだけど、これでもう店仕舞しようかな、って」
ライザがどんな表情かはリンはわからない。
「売れるものは体しか無くなったから、それで・・」
「・・」

声のトーンがどんどんか細くなる。
「リンなら一番最初をあげても・・
ううん、リンが最初じゃなきゃ嫌だから・・」
それきり、ライザも黙る。
「・・服は着たか?」
しばらくの沈黙の後、リンが問いかける。
「──あ、うん」
「そうか」
リンが振り向くと、そこには全裸のライザ。
再び盛大に茶を吹くリン。
10/06/29 22:34更新 / 市川 真夜

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