小鬼と積荷

転送魔法で再びリンの店に戻ったリンとユーリア。
──と、そこに待っていたライザ。
「どこに行っていたんだよ!?散々探したぞ!」
突然の剣幕に、何事かと問い返す。
「私の泊まっている宿屋が燃やされたんだ!
倉庫にも火が回って、このままじゃあ商売がパァなんだ!」
この火事もどうやら偶然ではなさそうだなとユーリア。

リンを引き寄せ、ユーリアがライザの方へ向き直り
「掴まれ!お主の宿屋まで飛ぶぞ!」
ライザがユーリアに掴まるが早いか、
自分の住処へと待機状態だった転送魔方陣を組み替える。
「転送目標変更、こやつの寝泊りする宿へ!
・・お主、宿屋の場所や情景をイメージせい!」
「へひッ?」
はじめて見るバフォメットにいきなりせかされ、戸惑うライザ。
「はようせい!お主の情景の所へ飛ぶんじゃからの!」
今まさに燃えさかっている、あの宿屋──
三人がその場から消え去り、
火事真っ只中の宿屋「アルシ亭」の中庭に飛び出た。

「熱っつ!」
「これは・・ひどいのう」
「・・荷物は!?」
三者三様の反応。
ライザが倉庫へ向かおうとするのをリンが無理矢理抑える。
ユーリアはというと、一人防御魔法を展開して野次馬気分だ。

「これはよく燃えておるのう・・火元も複数、火力も充分。
これだけ元気な炎なら、あと10分もせぬ間に全焼じゃわい」
「悠長なことを言っている場合か?
ユーリア、この火事を消せるか?」
ライザを羽交い絞めにしているリンが問う。
「いやぁ、無理じゃな。
不自然なくらいに火の精が動いておるし・・
──何より、水の精の気配がこれっぽっちも無い」

「どういう意味よ!」
暴れながらも叫ぶライザに、ユーリアが不敵な顔を近づける。
「放火、という事じゃ。お主・・ライザとやら、
何かでかいヤマに首を突っ込みすぎたか
消されなきゃいかんような事をしでかしたかの?」
ユーリアの言葉に詰まるライザ。
彼女から噴出す汗は、決して火の熱さだけでは無い。

「・・隣国の・・内政を聞いた」
ほう、と眉をあげるユーリア。
大人しくなったライザを解放すると、リンが続けた。
「反魔物勢の政局を魔物が聞いたとしたら
そりゃあ捨て置けないだろうが・・
そんな甘いもんじゃあないんだろ?」
「・・数週間後にこの国との国境付近にいる魔物達を殲滅するって・・
そんな事させるもんかって、連中に納品する予定の物をそのまま持ち逃げ」
何とも無謀な殲滅作戦ではあるが、反魔物勢からしてみれば
害虫駆除程度にしか考えてはいないのだろう。

「だからってお前、そりゃあまずいだろ?
いかにも「聞いちゃったからとんずらしまーす」じゃねぇか!」
「うっ・・」
商人としては相手が何者だろうと金を払えば客になる。
その使い道を知ってしまったから売らない、とはいかない。
・・が、それが許される行為でもないのだが。
ガラガラと音を立てて崩れる倉庫に我に帰ったライザだが、
壁の崩れた建物から見えたのは絶望だった。
かつて商品だったはずの物は無残に燃え尽き、
わずかに荷台の残骸が残っている程度。

「なんてこと・・」
その場に崩れ落ちるライザ。
いよいよ本館も崩れ始め、中庭も危うい。
「ライザ・・積荷はあきらめろ・・商売はやり直せる!」
リンが激を飛ばすが、虚ろになったライザに届いていない。
「ユーリア・・オレの店に戻れるか?」
「任せておけ。ほれ、飛ぶぞ!」
ライザの首根っこを掴んでユーリアにしがみつく。
一回り大きな通し柱が倒れてくる直前、再びリンの店へと飛んでいた。
10/06/28 04:15更新 / 市川 真夜

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