幼女と幼女

客間の一つに彼女はいた。
ユーリアと同じような体躯の魔物、バフォメットである。
客用のものであろうローブを身にまとい、
長椅子に腰掛けている。
「初にお目にかかる・・で良いかのう?」
向かいに座ったユーリアですら、同族を見るのも相当珍しい。

「まずは名前を聞かせてもらおうかの」
「・・オルガだ」
先の件で色々あったのだろう。大分やつれているようだ。
「ではオルガよ、先のお主が使おうとしていた
魔具のお陰で相当雲行きが怪しくなっておる。
それはわかっておろうな?」

ユーリアとしても対岸の火事では無い。
まして元凶ともいえる同族が目の前にいるのでは、
腹を立てるなという方が難しい。
「儂の魔具とて容易に作り出せるものではないのに、
それを使わせるなどと──
オルガよ、向こうで何があったのじゃ?」

「身内がな、捕らわれておる」
「何っ?」
聞けばサバトの最中に教会の精鋭が押し入り、
魔女達を文字通り蹂躙した後で生き残った少数を連れ去ったという。
その際魔具の幾つかも強奪され、体一つで国境まで逃げ延びたというのだ。
それが事実だとしたら、これは大問題である。

「角がな、折れてしもうた」
見ると、オルガの頭にある筈の1対の山羊角が無い。
無理矢理折り取られたというか、へし折られたというか。
魔界の実力者・バフォメットといえども、
魔力の源を奪われてはどうすることも出来ない。
「なんという・・むごい・・」
ユーリアの顔から血の色が引く。
目を、耳を、匂いも味も奪われたようなものだ。
同種族だからこそわかるその痛み、苦しみ。

「国境沿いにヴァンパイアの館が無かったら、
我輩はとうに死んでおった・・」
おそらく壮絶な逃避行だったのだろう。
「ユリウスじゃ」
「・・?」
「儂の名じゃ。皆はユーリアと呼んでおる」
「・・オレンカでいい」
二人のバフォメットが強く抱き合う。
オレンカの嗚咽に、そっと頭を撫でるユーリア。
同族にしか分かり合えないものだってある。

「ふむ・・そのような事が有ったとはな」
客間での出来事をドロシーに伝える。
ドロシーはドロシーなりに「本人が語るまで聞かない」
というスタンスだったようで
初めて聞かされるその事実にため息をついた。

「オレンカは手伝うと言うていたが、あの様子じゃあ当分は厳しいのう」
ユーリアいわく、角が片方無いだけで相当不便なのだという。
では、両方失ったら?──想像も付かない。

バフォメットの山羊角は闇取引で1・2を争う希少商品だった筈。
常人が持つだけで魔法が使い放題だとも聞いたことがある。
リンは商人として、その山羊角を手に入れられないかと考える。
商品としても売れるだろう。
オレンカに返したとして(元通りになればだが)恩も売れる。
──あくまで手に入れば、だが。
10/06/27 06:11更新 / 市川 真夜

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