頭の中に靄がかかっているようだった。思考を幾度となく中断させた桃色の靄からは、毎回リーズの姿が見え隠れしていた。
抱きしめたい。押し倒したい。当惑表情を浮かべるリーズに口づけしたい。閉じられていた唇を押し開き、温かい口腔内を蹂躙したい。喉の奥から吐き出されるその吐息を漏らすことなく肺に収めたい。体を弄りたい。普段身を包んでいる色気を感じさせぬ村娘の衣装を力任せに引き裂いて、穢れなき肌を目に収めたい。なだらかな曲線を描く下腹部や、女性らしくくびれている腰回りに手を這わせたい。ささやかに膨らんだ乳房を両手で鷲掴みにしたい。指の思うままに胸をこねくり回し、その柔らかさを堪能したい。掌の中で硬く隆起した突起を押しつぶして彼女を震わせたい。彼女の神聖な部分を守る様に閉じた太腿を、委細構わず開きたい。誰にも見せられることのなかったその秘裂を忘れぬよう眼に焼き付けたい。拒むように閉ざされた蕾に指を差し込み、奥から蜜を掻き出したい。指の蠢きに合わせてあふれだしてくるその蜜を、溢さぬように嘗め回したい。そして、もの欲しそうに開いた彼女の花弁に、俺の猛りを突き刺したい。神に捧げたはずの純潔を、俺の肉棒で貫きたい。蹂躙するように肉棒を突き動かして、彼女の温もりを感じたい。彼女の神聖な最奥に、俺の欲望をぶちまけたい。それでもなお彼女を蹂躙し続け、神のための無垢な顔を、快楽で緩んだ背徳の表情へ穢したい。
今まで願い続けた欲望が、願っても叶わぬと押さえつけていた欲望が、叶ってはならぬと殺し続けてきた欲望が、俺の身体を駆け巡る。募り続けた彼女への想いを燃やすように、炎のような熱が、俺の身体を彼女の下へ走らせようとする。だが、それはできない。村人たちは魔物の習性を理解していた。魔物の毒によって魔物になりつつある俺が誰も襲えぬよう、両手両足をベッドに縛り付けて抑え込んでいた。どんなに強く力をかけても、腕を縛る縄は千切れない。どんなに必死でもがこうが、脚を縛る縄は外れない。どんなに欲望をたぎらせても、それを鎮めることは決してできない。狂うような衝動の中で、俺はひたすら吠えた。喉を焼かんばかりに吠え続けた。それでも俺は全身全霊をかけてリーズの名は口にしなかった。神聖な彼女を俺の言葉で汚さぬために。心の奥で隠し続けた彼女への想いを守るために。魔物へ堕ちる俺の存在を想い残させぬように。俺はただただ苦悶の叫び声を上げ続けた。
不意に風が吹いた。柔らかに流れた風は、俺の全身を愛撫するように刺激する。それだけでも陰茎が跳ね上がる気持ちよさを感じたが、同時に漂う香りが、快楽を通り越して、呆然とさせた。鼻腔から脳にしみこむその匂いは、いつも嗅ぎ続けた少女の匂い。もはや二度と叶わぬと、叶ってはならぬと諦めようとした、想い人の香り。
俺は目を開けて部屋の入り口を見た。開け放たれたそこには、修道服姿のリーズがランプを持って佇んでいた。
これは夢か? 幻想か? 一目見たいと望みながら、望んではならぬと抑え込み続けた俺の心が生み出す幻か。黒を基調とした修道服は夜の闇に溶け込み、体の陰影を朧にさせる。ただただランプの炎が揺らめきながらリーズの顔を照らしていた。闇の中に浮かび上がったその顔は、今まで見たことがないほど綺麗で、艶めいていた。
「リーズ?」
名を呼んだだけで、俺の心は大きく跳ねた。息が詰まってこれ以上の言葉が出ない。だが、それ以上の言葉いらないとばかりに、リーズは進み出る。こつりこつりと響くリーズの足音が、リーズが近づいてくるという確かな期待が、俺の心臓を限界を超えて動かしていく。
「来ちゃ駄目だ」
肺の中の絞り出して、やっとその言葉が言えた。彼女の肌に触れたい。触れてはいけない。彼女と唇を交わしたい。交わしてはいけない。堅く抱擁したい。抱擁してはいけない。彼女の身体を弄りたい。弄ってはいけない。彼女の肉体に、俺の肉を突き立てたい。突き立ててはいけない。彼女の神性を、俺の欲望で汚したい。汚してはいけない。何よりも、彼女に愛を囁きたい。長年秘めてきた想いを彼女にぶつけたい。だが、神の道を進む聖女を、凡夫の言葉で惑わしてはいけない。
二律背反する思いが、交わることなく頭の中で渦を巻く。矛盾した思考に動く身体はリーズに飛びかかろうとするのか、それとも逃げ出そうとするのか、自分でも判別がつかない。もっとも、何れにせよ両手両足はベッドに縛られ、ただ縄をきしませるしかできなかった。
俺の必死の制止も聞かず、リーズはベッドの脇まで来た。枕元にランプを置いた彼女は、跪いて目線の高さを俺に合わせる。すぐ傍に近づいた彼女の顔に、俺の心臓は否が応にも高鳴っていく。厭らしいことだとは理解しながらも、彼女の呼気を吸っているという妄想が頭をよぎり、自身が更に興奮していくのが分か
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