コロッケ

 かつて、この世界には四人の英雄がいた。
 
 この世界に住むものの中で最も主神に愛されたと言われた、教団が誇る聖人、レオ。
 国一、否、全世界の人間の中でも最高峰の魔術の使い手である天才、大賢人アルト。
 ハーフエルフが持つ長い寿命の大半を戦場で過ごし続け、剣一本であらゆるものを打ち倒した剣の申し子。剣聖アレク。
 ・・・・・・そして、アルトに匹敵するほどの魔術の才能と、アレクと互角であったジパングから伝わったジパングソードの腕前、そしてレオとおなじくらい受けた魔王からの愛。
 それらすべてを駆使して、異界より来た者達との戦いに終止符を打ち、その命と引き換えに、異界の魔王が深淵の混沌から呼び寄せた邪神を討ち果たした英雄、リリムのアヤ。

 この四人の活躍で、当時の人々に恐れられていた異界の魔王は討ち果たされ、再びこの世界の状況に戻った。およそ、七十年近く前の出来事である。

 アヤを主神教団は異界に魔王の妻としてあつかったが、それは教団国と教団よりの中立国のごく一部しか信じなかった。

 最後の戦いにおいて邪神を道連れに命を落としたアヤを除く生き残ったレオ、アルト、アレクの三英雄。彼らはそれぞれの道を歩んでいた。

 レオは誰にも真似のできない偉業を成し遂げたことにより、主神教国の一つを統べる法王の一人となり、信頼できる信徒にアヤの真実を伝え。多くの信徒を導いた。
 アルトはその天才的な頭脳で、歴史に残るほどに魔術を発展させた大賢人となり、ある王都の中心において、今なおおとろえぬ知性で魔術の真理に迫り続けてる。 
 ・・・・・・アレクは伝説の傭兵として、旅を続けてるがゆえに、行くえは知れない。
 自由気ままに旅をし、男と女の間にある美しく整った容姿を使って行く先々で見目麗しい女性との浮名を流し、金と引き換えに盗賊たちをぶちのめす、伝説の剣士。
 吟遊詩人に謳われる大冒険をいくつも成し遂げてきた彼が、久方ぶりに王都を訪れ、旧友の元を尋ねたのは、とある冬の日であった。
ハーフエルフである以上、相応に魔力を持つはずだが、魔術にはかけらも興味もなく使うこともできぬため魔王の影響を受けてないアレクは、王都の誇る魔術の本拠地を訪れ、こう言った。
「よ。おいらちょっとアルトに用事あるんだ、君ら全員、アルトの弟子なんだろ?ちょっと呼んでんできてよ」
 ・・・・・・大賢人アルトが直々に現れて、久方ぶりの再会の挨拶をするまでに面倒な騒ぎが起こったのは、言うまでもなかった。

「アレク。まさかお主が訪ねてこようとはな・・・・・・相変わらず元気そうで何よりだ」
 その日、大賢人アルトは実に数十年ぶりになるアレクとの再会を、素直に喜んだ。
 並の魔術師では生涯入ることができないと言わてれいるれアルトの私室。
 カビくさい紙の匂いと怪しげな薬の匂いが漂い。。ところせましと所狭しと訳の分からない道具が並んだその場所で、アレクは何事もなかったかのように笑って言う。
「うん。アルトも変わらず・・・・・・って言いたいところだけど、やっぱ老けたね。完全にジジィじゃん」
 伝説の大賢人アルトに対しアレクは旧友の気安さで歯に衣着せずに言い放つ。
 あの戦いから七十年。並の人間七十年。並の人間ならそろそろ死んでもおかしくない時が過ぎ、かつては今の自分に比肩するほどに整った顔立ちであった若き天才魔術師は、痩せて今にも折れそうな、枯れ木のような老人になっていた。
「・・・・・・本当に相変わらずだな、お前さんは。それで、今日は何の用だ?お前さんが男に会いに来る以上は、何か用事があってのことだろう?ただ旧友に会いに来ただけではあるまい?」
「うん。話が早くて助かるよ。実はさ・・・・・・異世界にある食堂って奴に行ってみたい。ちょっと食べてみたいものがあるんだよ」
「・・・・・・なるほどな。そういうことであれば、案内してやろう」

 そして次の日の夕刻。アルトの研究室に彫られた魔法陣を使い、二人は扉をくぐる。チリンチリンと軽やかな音が響き、二人は異世界に至る。
「いらっしゃい・・・・・・おや、今日はもう来ないのかと思ってました」
 店主はアルトを見て、意外そうに言う。店主の知る限り、異世界の客の中では一番の古株であるこの常連は、大体昼までに来るか、最後まで来ないかのどっちかだ。今回みたいに日が暮れたころになって姿を見せるのは珍しい。
「いやなに、今日は連れがいてな」
 コホンと一つ咳払いをしたところで、アレクが挨拶をする。
「よっ!アンタがあれか!異界の料理人って奴か。おいらは・・・・・・まあ野郎に名乗ってもしゃあねえか。とにかくよろしくな!」
「は、はあ。よろしくお願いします」
 いきなりの軽い挨拶に戸惑いながらも、店主はぺこりと頭を下げる。
「・・・・・・ま、まあ悪い奴ではな
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