学校が夏休みの日、セミが煩い季節に僕は村のはずれにある
神社というには小さな社に来ていた。
「土地神様、失礼します」
夏休みの間は、友達たちはみんな親に
畑の手伝いなどをさせられるため、基本的には
僕たちの夏休みには課題はなく、
代わりに友達同士遊ぶということもあまりない。
だが、まだ体が小さく鍬を扱いきれない僕は
近くのお社の掃除に駆り出されたのだった。
大人たちや親は、ここにどんな神様がいるのかは
わからなかったみたいだけれど、みんなから
『土地神様』という名前で呼ばれている。
「だいぶ良くなってきた...」
もはや普段の日課である境内の掃除を済ませ、
木陰にあった切り株に座って一休みする。
辺りを見回せば、落ちていた葉や枝だとかは
ともかく、ずいぶん汚れていた鳥居に石灯籠、
狛犬も磨き上げられ新品同様になっていた。
ほとんどを一人でやるのは怖い。ここは大自然の山の中で
どんな獣が出てもおかしくないし、鳥居の上に
上ることもできればしたくない。
ただ、なるべく綺麗には直したい。
流石に鳥居は大人に手伝ってもらったけど、これを
一人だけでやったと思えば達成感がある。
全部綺麗に直せたら、親や大人たちに褒めてもらえるだろうか。
カサカサ......
「うわっ!?」
草を掻き分ける音がしたと思えば随分と大きな百足が
僕の足元を横切っている最中だった。
近くに良い餌場でもあるのか、中々な大きさだ。
10cmはあるだろうか。
なぜか、はっきりとした理由はないが、
その百足から目が離せずにそのまま追っていた。
「......あっ」
百足を追う途中で、社の足場が欠けていることに
気が付いた。イノシシにでもぶつかられたのか
大きな傷がついていた。また、村のおじさんに
頼んで工具を借りてこないといけない。
「一度帰って、直しに来ます。失礼しました」
鳥居の目の前で一礼して、山を駆け下り、麓の村に急ぐ。
「...」
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麓の村はいつもと変わらず、畑で働いている人や、
切り出した板を運ぶ人など、のどかないつもの村だった。
「おじさーん!」
「なんだ、社掃除の坊主じゃないか!
また工具かい?」
「うん!」
社の掃除をしているのは僕しかいないので、おじさんからは
いつの間にかこんな呼び方をされるようになった。
「やめてよその呼び方〜」
「ケケッ!似合ってるだろ〜?ほれもってけ」
「ありがと!家に帰るときに返しに来るから!」
「待ちな!」
おじさんに呼び止められたと思えば、小包を渡してきた。
受け取ってみれば、工具の類ではないらしい。
「おじさんこれなに?」
「昼御飯さ、そのうち腹減るだろうさ」
「ありがとう!」
「気をつけてな!」
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おじさんから、借りた工具とお昼を持って山を登っていく。
いち早く行きたいが、走ると危ないためにゆっくり歩いていく。
「はぁ...はぁ...」
大人たちなら、楽に登れる道でもまだ僕には辛い道だった。
なにより工具が箱に収まっているとはいえ重く、弁当の形が
崩れてしまわないように気をつけなければならない。
「よし...ついた」
普段よりも少し掛かってしまったが、お弁当の形も崩さずに
何事もなく到着することができた。
お弁当を切り株のところに置いて、工具を手に作業を始めた。
おじさんに教えてもらって、工具の扱いも前に比べて随分
上達したと思う。
箱の中に入れてもらった小さな板材を組み合わせて、修理を終えた。
「よし!...お腹すいた...」
終わってみれば、急にお腹が空腹を訴えてきた。
工具を箱に片付けて、切り株に座って包みを開いた。
「わぁ...!」
包みの中は、味のつけられた干し肉とおにぎりが二つ。
僕が好きなおじさんの料理だ。
「さすがおじさん...!いただきます!」
(お母さんには内緒にしよう)
カサカサ...
おじさんには工具の使い方や修理の方法を教えてもらう間に
何度かお昼は食べさせてもらっていたが、おじさんの料理は
味付けの濃いものが多く、食べ応えがある。
カサカサ...
「うん?」
また足元から音がしたと思えば、さっきの百足が足元にいた。
触角をピコピコと動かして、こっちに頭を向けて動かない。
「...?」
足をスッと避けてみると、少し近づいて切り株を登ってくる
わけでもなく、ぴたりと止まって動かなくなった。
「...お腹がすいてるのかな」
そう思って、おじさんにもらった干し肉を小さくちぎって、
近くにあった落ち葉に乗せて渡してみた。
「..食べる?」
カサカサ...カサカサ.
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