昔々、ある反魔物領の国に美しい王妃様がおりました。この王妃様は貧しい者や身分の低い者にも心優しく、太陽のように輝く金色の髪は世界中のどんな人間にも負けないと言われるほどに美しく、夫である王様だけでなく国中の人々から慕われておりました。
ところが、そんな王妃様もある時重い病にかかってしまい、陽が沈むように静かに息を引き取ってしまいました。王様も王妃様の忘れ形見であるお姫様も、それどころか国中の人々が、喪が明ける頃になっても皆暗い顔をしています。
ある時、それにたまりかねた家臣が王様に進言しました。
「陛下。この状況を変えるには、陛下が新しい奥方様、新たな王妃となる方を迎える他にはないのでは」
しかし、これには王様も渋い顔をします。
「そうは申すが、私にとって死んだ妃に代わりうるような女性がそうそう見つかるとは思えない。あいつより美しく、あいつより輝く金色の髪をしている女性がいれば話は変わるかもしれんがな」
そんなわけで家臣達は条件に合いそうな女性を探していくつもの反魔物領の国へ赴きましたが、世界広しと言えども先の王妃様に敵い得るほど美しい女性はそうそう見つからず、見つかったとしても王様が納得するような美しい金色の髪ではありませんでした。
家臣達も困り果ててしまったある日、お城の庭園を散歩していた王様は、庭園の花々に水をやっていたお姫様を見て言いました。
「そうだ。ここにいるじゃないか。私の死んだ妻に負けないくらい美しく、あいつに負けないくらい輝く金色の髪をした女性が」
それを聞いた家臣の顔がさっと青くなりました。
「陛下、お気を確かに。血の繋がった実の父親と娘が結婚するなど、主神様の教えに反します。そのような事をなさればこの国に神罰が下り、たちまち滅びてしまうでしょう」
「そうは申すが、他に私にとって再婚相手として納得できるような女性がこの世に存在するとは思えない」
お姫様も王様に抗議します。
「お父様。私に婚約者がいるのをお忘れですか。隣の国の若い王様と結婚するという話だったはずです」
しかし、王様は聞く耳を持ってくれません。
「娘よ。妻だけでなくお前までもが、私を独りにする気か」
その日の夜、お姫様はご自分の寝室でベッドに突っ伏して泣いておりました。
「お母様がいなくなって寂しいのは私も同じよ。本当ならお父様がこんなに早く再婚相手をお探しになる事だって嫌なのに、私がその相手になれだなんて」
そして泣き疲れたお姫様がうとうとしておりますと、夢の中に褐色の肌と桃色の髪を持つ、お亡くなりになった王妃様に負けないくらい美しい女の人が現れました。その人はお姫様に語り掛けます。
――貴女が大切な人達への愛を護りたいなら、今から私の言う通りにするのです。しかし、これは貴女にとって到底生易しいとは言えない試練になるでしょう。
翌朝、お姫様は父親である王様に、昨夜夢の中で聞いたとおりの事を言いました。
「お父様。もしどうしても私と結婚したいと仰るなら、今から私が申しあげる4つの品をお作り下さい。お日様のような金色のドレス、お月様のような銀色のドレス、星のように輝くドレス、そしてこの国にいるあらゆる種類の獣全ての皮を少しずつ繋いだマントを」
いくら王様でもそのような物を作れるはずがない。これで思いとどまってくれるだろう。お姫様はそう考えておりました。しかし、愛する者を喪った悲しみに押しつぶされそうになっている王様の執念は凄まじく、お姫様が言った通りの物を本当に全て完成させてしまいました。そのために国庫のお金を半分以上も費やそうがお構いなしです。
それどころか、主神教団の聖職者に化けたラタトスクが王様を非難するふりをしながら「実の父娘で結婚するなど親魔物領の者がやることだ」と仄めかしますと、国をあっさりと親魔物領に転換させてしまう始末でした。
「千の獣の皮を繋げたマントも完成した。明日には結婚式の準備に入るぞ」
そう言われてもう説得する術はないと悟ったお姫様は、この国を抜け出すことにしました。王妃様の形見である、手のひらに収まる大きさながらどれだけの数のドレスもすっぽり収まる魔法の箱に3つのドレスを入れ、千の獣のマントを羽織って身を隠すと、婚約者がいる隣の国へと通じる深い森の中へ走ります。
「私が逃げ出したとお父様が気づけば、すぐに送れるだけの追っ手を差し向けてくるはずだわ」
お姫様はただでさえ歩き慣れない森の中を、重くて動きにくいマントを羽織りながら必死に進み続けます。朝も夜も休まず歩き続け、とうとう疲れ切って1歩も進めなくなると、大きな木のうろの中に隠れてその中で休む事にしました。
よっぽど疲れていたのでしょうか。お姫様はそのまま何日も何日も眠り続けていました。それどころか夢の中でも赤ん坊の頃に戻り、
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