昔々、ある所におじいさんとおばあさんがおりました。
このおじいさんとおばあさんには1人の息子がおり、その名を太郎と言いました。
「俺、大きくなったらきっと立派なお侍さんになって、父様と母様に楽させてやるからな」
心優しい太郎はいつもそう話しておりました。
しかしある時、辺りの村々を恐ろしい流行り病が襲い、おじいさんと太郎は共に何日も高い熱に苦しみました。おばあさんの懸命な看病の甲斐もなく、太郎はそのままお侍になるという夢を叶える事無く死んでしまいます。
おじいさんはどうにか一命をとりとめましたが、その代わりなのかおじいさんの足腰はすっかり萎びてしまい、新たに子を成す事は望めそうもない身体になってしまいました。
それからまた更に数カ月経ち、おじいさんは山へ柴刈りに行けるようになるくらいには病から持ち直し、それを見て安心したおばあさんは溜まった洗濯物を抱えて川へ洗濯をしに行きました。
しかし、着る者を失った息子の服を見たおばあさんは、川辺に座り込んで泣きじゃくってしまいます。
「太郎。太郎やぁ……」
その時、川上からどんぶらこ、どんぶらこと不思議な音が聞こえてきます。おばあさんがそちらを見ると、川上から桃が流れてきました。拾って食べてみると、息子を失った悲しみに凍り付いていた心が不思議と温かくなってきます。
「そうだ。この桃をおじいさんにも食べさせてあげましょう。そうすればおじいさんも元気になるかもしれないわ」
おばあさんがそう言うと、さっきよりも更に大きな桃が川上からどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。
「苦い桃ならあっち行け。甘い桃ならこっちに来い」
そう歌うと、桃はおばあさんの方に流れてきたので、おばあさんはこれを拾って持って帰る事にしました。
柴刈りから帰ってきたおじいさんも、おばあさんの持ち帰った桃にはびっくりです。
「ほう。こんなでかい桃がこの世に存在するとは」
「おじいさん。これを食べれば、おじいさんの身体も元気になるんじゃないですかねえ」
「ありがとう。しかし、できる事なら、太郎にも食べさせてやりたかったなあ」
おじいさんとおばあさんは桃を半分に割り、その片方を庭に埋めた太郎のお墓にお供えし、残った半分をさらに2つに割って2人で分けて食べました。するとどうでしょう。身体がぽかぽかして、病に倒れてからずっとやせ細っていたおじいさんにも力がみなぎってきます。
「ばあさんや、見てくれ」
おじいさんが嬉しそうに袴を下ろすと、その下でずっと力なく垂れ下がったままになった物が、勢いよく褌を押し上げておりました。
「あらあら、おじいさん……」
おばあさんも顔を真っ赤にしながら、嬉しそうにそのおじいさんの身体をじっと見つめます。おじいさんとおばあさんはその日、久方ぶりに布団の上で朝日が昇るまで眠らずに過ごしました。これは、太郎が生まれる前の若い頃以来ついぞ無かった事です。
そして翌朝。おじいさんとおばあさんの家の戸を誰かが勢いよく開ける音がしました。
「おや。こんな早くから客人とは誰だろう」
2人は慌てて着物を着直し、玄関へと歩いていきます。そして、そこにいる人物を見た2人は思わずあっと声を上げました。
「お前、太郎じゃないか!」
そう。そこには死んだはずの太郎が立っていたのです。肌は青白く、身体は女子の体型に代わり、その一部は骨のような物がむき出しになっておりますが、その顔は紛れもなく、数カ月前に病で死んだはずの太郎です。
「父様、母様。お侍になる夢を果たせぬまま無念のうちに死の床についた私は、強い妖力に引き寄せられ、気が付けばこうして妖となって墓の下から這い出しておりました」
「強い妖力じゃと……そうか。昨日お供えしたあの不思議な桃のことじゃな」
「おじいさん。あの桃は、神様からの贈り物だったんじゃないんですかねえ」
ジパングでは無念のうちに死んだお侍さんの亡骸が、落武者という死霊(アンデッド)の妖として蘇る事があります。こうして落武者として蘇った太郎は、神様の桃により新たな生を授けられたという事で、この日から桃太郎と名乗るようになりました。
それから更に何年もの時が経ち、桃太郎も15歳になりました。胸や尻は桃のようにふっくらとふくよかになり、死霊の身体になった後も武士としての鍛錬を毎日欠かさず続けた事で、引き締まる所はきゅっと引き締まった魅惑的な女の体型に成長しています。病で1度命を落とす前は男子として生きていたはずの桃太郎ですが、不思議な事に今となっては女となった今の身体の方があるべき姿であるような気さえしているのでした。
そんなある日、桃太郎はおじいさんとおばあさんに言いました。
「父様、母様。私は仕えるべき主君となる人、私が子を産むべき夫にふさわしい人を見
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6]
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想