後編

 あれから数日。ドワーフ達は白雪を棺に納めた後も、仕事の注文を受けたり山へ採鉱に行ったりする事無く、一日中柩の傍でどこか遠くを見たり涙ぐんだりして過ごし、夜になるとそのまま柩の周りで横になっていました。食事もパンや干し肉や野菜を切って口に押し込むだけです。白雪の手料理が食べたい。あの逞しい腕に抱かれて熱い精をお腹いっぱいに注がれたい。頭の中にはそれだけしか浮かびません。それが叶わない今、どんなに上等なごちそうを食べても砂を齧ったようにしか感じないのではないかとさえ思えてきます。しかし、ドワーフの1人が言いました。
「やっぱりだめだ。こんなんじゃ白雪が悲しんじまう」
 すると、他のドワーフ達も服の袖で涙を拭いながら言います。
「そうだよな。ちゃんとお別れしてやらないとだめだよな」
「それに、あたいたちにはお腹の子供がいるんだ。父親がいないならせめてあたいたちがちゃんとした母親になってやらないと、この子達には誰もいなくなっちまう」
「私達はママになるんだよな……」
 それから彼女達は白雪のお墓をどこにするか話し合い、森の近くで1番高い山の頂に埋める事にしました。
 ドワーフ達は翌朝、日が出たばかりの時間に家を出ましたが、白雪の体に傷が付かないように山道を慎重に運ばなければならなかったので、力のある彼女達といえど柩を山頂に運び終える頃には既に夕日が沈みかけていました。




 ドワーフ達が柩を運んでいた時、1つの影が後をつけていました。白雪の元養父、アルプの女王様です。彼女はその手にスコップを持ち、ドワーフからはできるだけ死角になるような場所を選んで木々の間を飛んでいきます。
 ドワーフ達が白雪を埋葬して立ち去った後、彼の柩を掘りだす。それが白雪に妻がいると知ったダークメイジの元お妃様とアルプの女王様が立てた、計画の第2段階でした。
 実は白雪は完全に死んでいるわけではありません。ダークメイジがかけた呪いにより、魂と精を心臓に封印されていたのです。心臓に仕掛けた魔法陣により、肉体は死んだように装いながらも完全に死なないギリギリの状態で保たれ、腐敗やネクロマンシー等によるアンデッド化を阻害するようになっていました。しかもこの封印の魔法陣はダークメイジにとって可能な限り複雑にした物が何重も仕掛けられており、封印に気が付いたとしても並の魔物では魔法陣を解析するだけでも数日かかるという話でした。そして、ある特定の「鍵」を使った時にだけ、その魔法陣は簡単に解けるようになっていました。
 ドワーフ達には白雪が死んだと思わせつつ、彼を密かに蘇生し、自分達の夫として迎える。それがダークメイジとアルプが立てた計画です。

 しかし、ダークメイジには黙っていましたが、アルプの女王様にはこの計画の続き、第3段階がありました。
 彼女はダークメイジが白雪にかける魔法陣などの準備をしている間、この元お妃様が過去に行った悪事――反魔物領時代に行った当時の禁制品の違法な入手・所持など――の証拠を可能な限り集め、アルプの女王様が判子さえ押せばいつでもダークメイジの元お妃様を投獄できるよう密かに手筈を整えていました。
 元妻に自分が白雪の側室になれる、彼を「使い魔」にする事ができると思わせた上で一気に絶望の底へと叩き落す。そして自分が白雪のただ1人の妻となる。それがアルプの女王様の計画でした。


 彼女がまだ人間の王子様で、他国の王子様に一目惚れをして暴走し、国交断絶の寸前まで行きかけるという最悪の結果に終わった頃。王国の大臣達は王子様が有力な貴族の娘と結婚するよう縁談の手はずを整え、拒否権の行使を諦めざるを得ないように手を回しました。
『この国も主神教団を国教としている以上、こうでもしなければレスカティエへの体面を保てなくなってしまいます』
『貴方様もいずれは王位を継承するお世継ぎをこの国に残さなければならない立場なのですよ』
『なぜ男なんだ』
 大臣達は王国の立場を考えれば一見尤もらしい言葉で取り繕っていましたが、貴族から入ってくる袖の下が1番の目当てである事は王子様の目にも明らかでした。
 そして、そんな大臣達以上に、この時押し付けられた結婚相手である後のお妃様の存在は彼により強い嫌悪感をもたらしました。
 彼女が王子様に対して少しでも異性としての好意を持って接していたならば、王子様も少しは情のような物を抱いていたかもしれません。しかし、彼女は明らかに自分の地位の為だけに、同性愛者である王子様に女性である彼女と寝屋を共にするという行為を数えきれないほどに強要したのです。
 彼は妻との間にお世継ぎが生まれないよう、精の精製能力を抑える薬――用法を少しでも間違えれば命を大きく削りかねない薬を密かに服用し続けました。
 更には若すぎる事を除けば自分の好みに近い白
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