昔、とても寒い雪の日に、ある美しい若妻が自宅の庭でリンゴの皮をむいていました。すると、彼女は誤ってナイフで自分の指を傷つけてしまい、真っ白な雪の上に真っ赤な血が落ちました。それを見た若妻はこう呟きました。
「この血のように赤く、この雪のように白い子供が欲しいわ」
次の年、その庭に生えている1本の大きな杜松の木が立派な実を付けました。若妻はその実を食べ、2ヶ月後にかわいらしい娘を産みましたが、彼女は産後の肥立ちが悪く日に日に衰えていきました。
「私が死んだら庭にある杜松の木の根元に埋めてください。私はそこから娘の成長を見守りたいと思います」
そう言い残し、若妻は息を引き取りました。
夫は亡くなった若妻の遺言に従い、彼女の遺骨を杜松の木の下に埋めました。彼はそれから何年もの間嘆き悲しんでいましたが、やがて新しい妻を迎えました。
後妻は程なくして男の子を出産し、息子にマルコと名付けました。しかし、マルコが大きく成長すると、母親は彼女の夫である父がマルコよりも彼の異母姉の方に大きな愛情をかけているように思えてきました。彼女にとって継娘に当たるこの女の子は美しいだけでなく学校の成績もよく、異国の言葉を流ちょうに話すこともでき、周囲から一目置かれていたからです。
母は継娘に冷たく当たるようになり、最初は夫の目を盗んで暴言を吐くだけだったのが、次第に言葉だけでなく殴る蹴るといった暴力にも訴えるようになりました。父はそれに気づかなかったので、母を止めに入るのは大抵マルコの役目でしたが、彼女はある時異母姉を守ろうとする息子の目に、弟としてだけでなく男としての情熱が混じっているように感じました。母はますます継娘への嫌悪感を強く覚え、その暴力も苛烈さを増していき、娘は継母の姿を見るたびに酷く怯えるようになりました。
ある日、母は知り合いの農家からリンゴのお裾分けを貰いました。マルコがそのリンゴを1つ食べたいとねだった時、ふと母の頭に恐ろしい考えが浮かびました。
「お姉ちゃんが学校から帰ってきてからにしなさい」
そう言って母はマルコを外に遊びに行かせると、リンゴを大きく重い蓋が付いた鉄の箱の中に入れました。娘が学校から帰ってくると、母は猫なで声で娘に言いました。
「おかえり。台所に美味しいリンゴがあるわよ。1つお食べ」
いつものように暴言や暴力が飛んでくると覚悟していた娘は面食らいましたが、言われた通り台所に行ってリンゴを1つ取ろうと鉄の箱に屈みこみます。
その時、母は素早く鉄の箱の蓋を閉じ、首を挟まれた娘はそのまま首がちぎれて死んでしまいました。
これで邪魔者はいなくなった。最初はそう思った母でしたが、ふと我に返ると「これが自分の仕業だとばれないように誤魔化さなければ」と慌てて考えました。
母は娘の死体を食卓の椅子に座らせると、首の上に頭を乗せ、白い絹のハンカチで縛って固定します。その時、マルコが帰ってくる物音がしたので母は急いで姿を隠しました。
マルコは椅子に座った異母姉に気づくと、母が見ているとは知らない彼はまるで恋人に対してするように姉を後ろから抱きしめました。すると、姉の頭がゴトリとテーブルの上に落ちます。何が起きたのか解らずにマルコが狼狽えていると、タイミングを見計らった母がやってきてこう言いました。
「この事をお父さんが知ったら、お父さんは怒って私達を殺そうとするでしょうね。お姉ちゃんの死体だと解らないように、鍋に入れてスープの具にしてしまいましょう」
こうして母は息子を共犯者に仕立て上げると、まるで豚や牛を捌くように手際よく継娘の死体を解体し、その肉を鍋に放り込みました。マルコは母を手伝いながら大粒の涙を鍋にこぼしていったので、味付けの塩を加える必要がないくらいでした。
やがて父が仕事から帰ってくると、彼は娘の姿が見えない事にすぐに気づきました。
「おい。俺の娘はどこだ?」
すると、母はこう言い繕いました。
「今日になって親戚のおばさんの家に遊びに行くっていきなり言い出したわ。しばらく帰ってこないって」
「そういう時は事前に言ってくれないと困るんだけどなあ」
そう言いながら、父はスープを口に運びました。
「おや、今日のスープはいつにも増してうまいな。特に具の肉が柔らかい」
マルコは父が上機嫌な様子でスープを平らげていくのを真っ青な顔でぶるぶる震えながら見守っていました。それから、彼は姉の骨を両親に見つからないようにテーブルの下にこっそりかき集めました。
翌日、マルコはひとかけらも残さず集めた姉の骨を白い絹のハンカチで丁寧に包むと、庭にある杜松の木の根元に埋めました。それは奇しくも、マルコの父が姉の母に当たる前妻を亡くした時と同じ行動でした。すると、風もないのに突然杜松の木が大きく揺れ始め、
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