「ふわぁ」
翌朝、ホームルーム前の教室で私は小さくあくびをしました。仮にも学校中の有名人な女子生徒として通っている人が実は男の人だと知ってしまった上、その人に強引に処女を奪われたのです。何事もなかったかのように気楽に寝ていろというのは無茶な相談です。それに明け方になってようやく眠りに入れたと思ったら夢の中で昨日の出来事がフラッシュバックしてしまい、下着をぐしょぐしょに濡らして変な声を上げながら飛び起きる羽目になってしまったのです。おかげでルームメイトからも変な目で見られました。
「ウラちゃんどしたの。なんだか今日は元気ないね?」
クラスメイトのコボルドの娘が心配して話しかけてきました。鼻のいい彼女なら私が昨日男の人に犯されたことを感づいてもおかしくないはずなのですが、何も知らない様子で無邪気に尻尾を振っています。昨日事が済んだ後で黄瀬さんが自分に使っている魔法と同じものを私にかけ、彼の精の匂いを誤魔化したからです。
「ウラちゃんも私みたいに早起きしてお散歩するといいよ。朝日を浴びながら走るのって気持ちいいんだよ」
この娘は陸上部に入っているのですが、ハードな朝練も彼女にかかれば「たのしいお散歩」でしかないそうです。聞くところによると学校や寮の周りを走り込みしながら、同じように通勤前にジョギングするのが日課だったおかげで出会ったという「ご主人様」と路地裏で「交尾」して朝練に戻ってくる余裕ぶりなのだとか。
その時、教室の入り口の方で何やらざわつく声が聞こえてきました。眠気で頭がぼうっとしている私はそれを聞き流します。しかし、その騒ぎは決して私と無関係ではありませんでした。
「その、浜浦さんを呼んでくるように言われたんだけど……」
コボルドの娘とは別のクラスメイトに言われて教室の入り口に目を向けた私は、そこで一気に目を覚ましました。黄瀬さんを背後に従えた赤宮さんが1年の教室まで来ていたのです。私は慌ててお2人の方へと向かいます。
「いいい、一体何のご用でしょうか」
私はまだ完全に回りきっていない頭を急いで稼働させながら喋ります。
「あなた、昨日これを忘れていたでしょう?」
そう言って赤宮さんは小さなケースに入った電子辞書を取り出しました。
「あ」
私はようやく思い出します。そういえば昨日生徒会室に戻ろうとしたのは、書記の先輩にお貸しした電子辞書を返してもらった時に、鞄にしまうのを忘れていた事に後から気付いたからです。
「ありがとうございます」
私が電子辞書のケースを受け取ると、赤宮さんはそんな私の様子をじろじろと見てきました。
「それにしてもあなたその恰好どうしたの。服がよれよれでタイも曲がっているじゃない」
昨日あなた方にレイプされたせいです、などと言えるはずもなく。同じクラスだけでなく両隣のクラスの子達までこちらの様子を遠巻きに伺う視線を感じながら、私は赤宮さんに身だしなみを整えて頂きつつ、針の筵に座るような気持ちで立っている事しかできません。
「まあこんなもんかしら。生徒会に参加するならいつも生徒のお手本になる事を意識しないとね、透子(とうこ)さん」
「……え?」
私が一瞬自分の耳を疑ったその時、周囲で私達の様子を眺めていた子達が再びざわつき始めました。赤宮さんはそれにも気づいていないかのような様子で悠然と歩き去り、その後ろを黄瀬さんが慌てて付いていくのが見えます。誰かがひと際大きい声で囁いているのが私の耳に届きました。
「今、会長が1年生を下の名前で呼んだよね……?」
「1年から聞いたわよ。一体どういう事なのか説明してちょうだい」
放課後、私は2年生の先輩3人から屋上に呼び出されました。ダークエルフの先輩が私に詰め寄ります。
「な、何がと言われましても。私にも何が何だか」
すると、今度は人間の先輩が私を詰ります。
「嘘おっしゃい。随分親しげに呼びかけられていたそうじゃない。心当たりがないとは言わせないわよ」
本当の事を話すわけにもいかずに視線をさ迷わせていると、3人目の先輩と目が合いました。この人は見覚えがあります。私と同じく生徒会庶務をしている2年の先輩(ちなみにこの学校では庶務を務めるのは2年生の秋に新しい生徒会役員を選挙で決める時までです)で、人間の姿をしていますが確かワーバットだったと思います。
そのワーバットの先輩は私と目が合うと、曖昧に苦笑いを浮かべてきました。この人は無理に付き合わされていたのかな、と思ったその時、ダークエルフの先輩がワーバットの先輩に小声――おそらく本人は私に聞こえないくらい小さくしたつもりの声で、何やら話しかけるのが聞こえました。
「ちょっと。あんたも何か言ってやりなさいよ。ファンクラブのリーダーはあんたでしょ」
どうやら彼女は付き合わされたどころかむしろ首
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