昔々、ある所に仲の良い人間の夫婦がいて、奥さんに初めての子供ができました。ところが、奥さんが重い病気にかかってしまい、奥さんもお腹の子供も危険な状態になってしまいます。奥さんを診察した医者は夫にこう言いました。
「この病を治すには野ぢしゃを食べさせるしかない」
夫は慌てて野ぢしゃを探しましたが、運悪くその年はいつもより寒かったため、どこを探しても野ぢしゃは見つかりません。それでも夫は必死にあちこちを探し回り、森の奥にあるサバトの菜園に新鮮な野ぢしゃがある事をようやく聞きつけました。
そこで夫はサバトに行き、野ぢしゃを分けてほしいとバフォメットに頼みました。ところが、バフォ様はここで育てている野ぢしゃを人間に食べさせるわけにはいかないと言って譲りません。こうしている間にも奥さんやお腹の子供が死んでしまうのではないか。思い余った夫はサバトの菜園にある野ぢしゃを盗んで持って行ってしまいました。菜園では魔女やファミリアが何人もいましたが、止めに入ろうにも彼の事情を知ってかわいそうに思っていたので強く引き留める事ができなかったのです。
バフォ様が夫婦の家にまで追いかけていきましたが時すでに遅く、奥さんは野ぢしゃをサラダにして平らげてしまっていました。それを見たバフォ様は顔を真っ青にして叫びます。
「なんという事をしてくれたんじゃ。あれは新しい魔法薬の材料にするために、色々な魔物の魔力を込める実験をしている途中だったんじゃぞ。それを人間の、よりにもよって妊婦に食べさせるとは。お腹の子供にどんな影響が及ぶか、わしにも見当がつかんぞ」
それからしばらくして奥さんは出産しましたが、子供は大きな植物の種の形になっていました。バフォ様は子供が人里で暮らしても大丈夫だと確認できるまで隔離しておかなければならないと夫婦に話し、大きな種を森の奥へと運んでいきました。そしてサバトの魔物娘達がそこにある高い塔の上に大きなプランターを置いてそこに種を植え、可愛らしいアルラウネの赤ん坊が土の中から出てくると野ぢしゃ姫(ラプンツェル)と名付けて大切に育てました。ラプンツェルは魔物娘としての魔力がとても不安定だったので、親元に帰せるようにするためにはこの魔力をどうにかして安定させなければなりません。塔の上にいるラプンツェルのお世話をして彼女の魔力を安定させるための研究を行うためには、彼女がいる高い塔に昇らなければなりませんでした。魔女やファミリアはほうきや翼で空を飛んで塔の上まで行けましたが、バフォ様がラプンツェルの所に行く時には塔の下で「ラプンツェル、ラプンツェルや。わしの所に蔓を下ろしておくれ」と呼びかけます。それを聞くとラプンツェルは長い蔓を塔の上にある窓の留め金に引っ掛け、バフォ様の所に下ろして彼女を引き上げるのでした。
ラプンツェルの魔力を安定させる方法がなかなか見つからないまま、気付けば彼女は13歳になっていました。そんなある日、塔の近くを1人のお兄さんが馬に乗って通りかかりました。すると、どこかから可愛らしい歌声が聞こえてきました。塔の上でラプンツェルが歌っていたのです。その歌声に乗ってラプンツェルの不安定な魔力が声と一緒に塔の外に漏れだし、ラミアの声やセイレーンの歌と同じような効果を塔の周りにもたらしていました。お兄さんはそんなラプンツェルの歌声にフラフラと誘われ、塔の近くへと歩み寄っていきます。お兄さんは塔の上にのぼってみたいと思いましたが、いくら探しても入り口は見つかりません。その日は仕方なく馬に乗って家に帰りましたが、それからお兄さんは毎日のように塔の下までやってきては、ラプンツェルの歌に聞きほれていました。
そんなある日。お兄さんが塔の近くまで行ってみますと、そこにバフォ様が立っていました。お兄さんが慌てて近くの木のそばに身を隠すと、バフォ様は塔の上に向かって叫びます。
「ラプンツェル、ラプンツェルや。わしの所に蔓を下ろしておくれ」
それを見たお兄さんは、バフォ様が塔から降りて帰っていった隙を見計らい、同じように呼びかけてみる事にしました。
「ラプンツェル、ラプンツェルや。わしの所に蔓を下ろしておくれ」
すると、塔の上から植物の蔓が垂れ下がってきたので、お兄さんはそれを伝って塔の上にのぼっていきました。
「あれ。おかしいわね。いつもゴーテル様(育てのお母様という意味です)を引っ張り上げる時は軽いのに、今は妙に重いわ」
不思議に思いながら蔓を引っ張り上げたラプンツェルは、塔の中に入ってきたお兄さんの姿を見てとても驚きました。物心ついてからずっと塔の上で幼女の魔物娘としか会わない生活を送っていたラプンツェルは、男の人を見るのは初めてだったからです。いつもの小さくて丸っこくて柔らかいみんなとちがって背が高くごつごつ
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