「申し訳ありませんご主人様。私は使用人という立場にありながら、ご主人様の目の前でウトウトして大事なご指示を聞き逃してしまったようです。失礼ですが、もう1度繰り返していただけませんか」
キキーモラのチトラは自分の額に手を当て、呆れたような声でそう言った。本当に聞き逃してしまったというより、どうか夢であってくれという意味で言ったのが明らかだ。
寝起きでまだウトウトしている時に、寝ぼけておかしな事を口走ってしまったと素直に謝るのが誠実な態度という物だろう。あるいは聡明で優しいチトラの事だ。今からでも彼女の聞き間違いだという事で無理に通しておけば、彼女も何も聞かなかったことにしておいてくれるかもしれない。
いずれにせよ、ここ数カ月にわたってメイドとして俺の生活を支えてくれたチトラと俺との関係に、これ以上のひびを入れる事を避ける手段はまだ残されているはずだった。
しかし、俺の口はそんな俺自身の思惑を無視し、さっきの俺の妄言を1文字違わず繰り返した。
おパンツを見せてくれ、と。
チトラの口から漏れるため息が、俺の耳には嫌に大きく聞こえた。
俺の寝室に気まずい沈黙が流れる。ややあって、チトラの声がその沈黙を破った。俺が今まで聞いてきた中でとびきり冷たい声が。
「ご主人様。確かに私は貴方に仕えるメイドです。そうなる事を選んだのは私の意思ですし、貴方を敬愛している、と申しても嘘にはなりません。しかし、私の記憶が正しければ、ご主人様と『そのような関係』になった覚えは無いはずですが」
チトラの言う事はもっともだ。はっきり言って、自分のしでかした事に俺自身驚いている。だが、言い訳を許してもらえるなら、こうなるに至るまでに思い当たる原因も全く存在しないわけではない。
まず、俺がチトラに対して主人が使用人に向ける以上の感情を自覚するようになり、チトラの一挙手一投足にドキリとするようになったり、その……色々と下世話な欲求を喚起されたりするようになった事。そして同時に最近俺の仕事が繁忙期を迎え、アレを処理するどころか眠る時間もろくに取れなかったのが昨日ようやく片付き、久々の惰眠を貪るという幸せにありつけた事で色々と心のタガが緩んでいたという事が。
しかし、それで口をついて出た言葉がおパンツを見せろとは。
「まさか私がお仕えすべきご主人様として心に決めた人が、こんな変態ダメ人間だったとは」
耳をピンと張り、屈辱的な眼差しでこちらを睨みながら、チトラはメイド服のスカートの裾をぎゅっと握る。その手がぶるぶると震えたかと思うと、少しずつ裾を上に持ち上げていく。さっきはああ言ったが、まさか本当に見せてくれるなんて。
「当たり前です。自分から仕えると決めた相手の命令から逃げ出すなど、キキーモラとしてのプライドに反します」
なんだかよく解らない理屈を俺にぶつけながらも、チトラはスカートの裾を持ち上げていく。露出度の高い服装を好むと聞く魔物娘にしては珍しい彼女のロングスカートは1度では全部持ち上がらず、少しずつ手繰り寄せていくような形になる。裾がゆっくりと上がっていく様はまるで舞台の緞帳だ。そしてその緞帳の後ろから、鱗に覆われた脚とふっくらとした太ももに続いて、待ちに待った主役が姿を現した。
俺は思わず息を呑む。そこにあるのは純白のショーツだった。いつも炊事洗濯をきっちりこなすチトラらしく、その真っ白な肌着には小さな汚れ1つも見られない。その完璧な白が鼠径部や太ももの白磁のような肌と見事にマッチし、まるで眩い光を放っているかのようだ。
俺はこのささやかで美しい舞台のたった1人の観客となれる栄誉に酔い痴れていた。
そんな俺の幸福感に満ちた静寂を、チトラの冷え切った声が再び破る。
「ご主人様。私がなぜ怒っているのか、理解していらっしゃいますか」
チトラの言葉に俺の胸が罪悪感でチクリと痛む。俺は数カ月かけて彼女との間に築いた信頼を、セクハラという形で裏切ったのだ。しかも積み木を崩して遊ぶ子供のように、一時の気まぐれで。そう答えながらも、俺の胸を痛める罪悪感は同時に、言い知れない背徳感となって俺の背筋を駆け上っていた。
「100点満点で言うなら50点ですね」
スカートの裾から手を離しながら、チトラは答える。そして未だにベッドの上で横になった状態の俺の許へと歩み寄りながら、相変わらず冷たいまなざしで俺の目を見据え、彼女は続けた。
「私が怒っているのは、正確にはご主人様が私を卑しい欲望のはけ口に使おうとしたからではありません。そのような欲望を露わにしながらも、私に子を授けようとしてくださる気概も、責任を取って私を嫁にしようという覚悟も見せずに一時的にご自分の目を楽しませて終わりにしようとなさった事です」
気が付けば、チトラは俺の上
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