これは、ある年のクリスマスイブのお話しです。その年の冬はいつもよりも寒く、分厚い雪が街じゅうを真っ白に覆っていました。そしてそんな中を、みすぼらしい格好をした少女が歩いておりました。
「マッチはいかがですか。マッチを買ってくれませんか」
少女はマッチの入った小さな籠を手に、道行く人達に呼びかけます。
「お願いします。誰かマッチを買ってください。1本でもいいから」
ほとんど泣きそうになりながら大声で叫びますが、皆聞こえないふりをして通り過ぎていくばかりです。履いている靴はぶかぶかで、朝から降り続いている雪が足との隙間に容赦なく入ってきます。そうしているうちに辺りも暗くなり、ますます寒くなってきました。
「お母さん、今日の晩御飯は何?」
「今日はクリスマスイブだから、七面鳥よ」
「わーい、やったー」
少女の近くを小さな子供とその母親が楽しそうに話しながら通り過ぎます。
「いいなあ……」
少女がそう呟いた時、近くを大きな馬車が猛スピードで通りかかりました。
「どけどけ! 跳ね飛ばすぞ!」
「わあ!」
慌てて逃げようとした少女は、雪の上に転んでしまいました。ぶかぶかだった靴は脱げ、雪に紛れて見えなくなってしまいます。
「どうしよう。靴はあれしか持っていないのに」
少女が手を冷たくしながら雪をかき分けていると、暖かそうなコートを着た子供達が片方の靴を拾って言いました。
「おい、なんか変なもの拾ったぞ」
子供達は靴をボールの代わりに投げて遊び始め、そのままどこかへと走り去ろうとします。
「待って! その靴返して!」
少女は慌てて呼び止めようとしましたが、聞き入れてもらえませんでした。
それから、少女は冷たい雪の上を裸足で歩かなければなりませんでした。どこかから鳥の焼けるいい匂いが漂ってきます。それを嗅いでいると、少女のお腹がぐうと鳴りました。辺りを見回しても人影はもうありません。
少女は家に帰る事はできませんでした。物心つく前に両親を失った少女は優しいおばあさんの家で育てられていたのですが、そのおばあさんも病気で亡くなると、それまで顔も見た事のなかった親戚のおじさんの家に預けられたのでした。このおじさんはとても怖い人で、少女が銅貨の1枚も稼ぐことができずに帰ってきたとなれば間違いなく殴られます。いや、殴られるだけならまだいいでしょう。おじさんの機嫌が悪い時にはもっと嫌な事までされてしまうのです。
少女は冷たさで足が痛くなってしまい、とうとう塀に寄りかかるようにして座り込んでしまいました。容赦なく降り続ける雪を凌げる物もありません。
「1本だけ。ちょっと指先を温めるだけだから」
誰に言うまでもなく呟くと、少女は籠からマッチを1本取り出し、塀でこすって火を付けました。とても小さな火でしたが、冷え切った少女の手にはとても暖かく感じます。
すると、不思議なものが見えました。目の前に大きなストーブが現れたのです。
「うわあ」
少女は嬉しそうな声を上げながら、足を温めようとストーブの方に伸ばしました。その時、手に持ったマッチの火が消えたかと思うと、同時にストーブも消えてしまいました。
少女が慌てて新しいマッチを取り出して火をつけると、今度は暖かそうなスープと焼けた七面鳥が見えました。しかし、これも少女が手を伸ばすとマッチの火が消え、ごちそうも消えてしまいます。
もう1本火をつけると、今度は大きなクリスマスツリーが見えました。たくさんの温かそうなろうそくの火が灯っています。しかし、やっぱりマッチはすぐに消え、クリスマスツリーのろうそくも空へ浮かぶと、1つの流れ星になって消えていきました。
――いいかい、流れ星が空に消える時はね、亡くなった人の魂が天国へ昇っていく時なんだよ。
少女は優しかったおばあちゃんを思い出しました。
「おばあちゃん、会いたいよ……」
呟きながらもう1本マッチに火を付けます。すると、今度はそのおばあちゃんが現れました。少女に優しく微笑んで手を振っています。しかし、マッチの火が消えると、おばあちゃんの姿もすうっと溶けてなくなるように空へと消えていきました。
「待って! 俺も連れて行って!」
少女は慌てて何本ものマッチを取り出すと、まとめて火を付けました。すると、今度は暖かい紅茶の入ったティーポットと、サンドイッチやお菓子の載ったティースタンドが見えました。少女はそれを寂しそうな目で見つめます。
(おいしそう。でも、あれもすぐに消えちゃうんだろうな……)
そして、やっぱりすぐにマッチの火は消えてしまいます。しかし、その時不思議な事が起こりました。そのティーポットとティースタンドだけは、さっきまで少女が見ていた物のように消えなかったのです。
「……え?」
少女は慌てて目をこすり、キョ
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