昔々、ある農村に乱暴な男がおりました。この村ではジパングの農村によくある話として、夜中に未婚の男が未婚の女の家に遊びに行く「夜這い」という慣習があるのですが、この男は相手の女の気持ちを考えずに振る舞うので女達の間で悪い噂が広まり、とうとうどこの家に夜這いしに行っても門前払いを受けるようになってしまいました。
それを見かねた村の相談役の男はある日、この乱暴者の男を柴刈りに誘うと、人目に付かない山の奥まで来たところで話を切り出しました。
「いい加減自分の都合ばかりじゃなくて、相手のおなごの気持ちを考える事を覚えろ。夜這いはかわつるみ(編注:こちらの国の言葉でいうオナニーの事ではないかと考えられます)とはわけが違うんだ」
ところが、どこの家からも門前払いを受けてへそを曲げてしまっていた男は心にもない事を口にしてしまいます。
「ふん。嫁を貰(もろ)うたらその分米が減るのが早(はよ)うなる。米を1粒も口にせんようなおなごでもおらん限り、俺は結婚する気にはならん」
それを聞いた相談役の男は慌てふためきます。
「何を言うか。米は山の神様がくださった綺麗な川の水が育んだ物じゃ。それを独り占めしようなど、山の神様の前でめったなことを言うもんでねえ。今に罰が当たるぞ」
しかし、乱暴者の男は聞く耳を持ちませんでした。
その日の夜、乱暴者の男が囲炉裏の前に座って独りで自分を慰めておりますと、突然家の戸を叩く音がしました。
「はて。こんな時間に誰じゃろうか」
慌てて袴を履きなおした男が戸を開けると、そこに見たこともないような美しい娘が立っておりました。
「私は行く場所もなく困り果てている者です。米を1粒も口にしないと約束しますので、この家に置いて頂けないでしょうか」
「なんと。まさか米を1粒も口にせんおなごが本当におったとは」
そして男が娘を家に入れると、娘は男の寝床に上がってするすると着物を脱ぎ始めます。
「私にはこのような事しかできませんが、せめてものお礼をさせてください」
その娘との交合は男が今まで経験したどんな女との交わりよりも素晴らしい物でした。そのほとの中では虫の卵のような大きさをしたひだが、男のまらを絶妙な具合で撫でてきます。そして男にとって何より嬉しい事に、男がどれだけ激しく攻めても文句を言うどころか、気持ち良さそうによがって娘の方からもっともっととせがんでくるのです。男は堪らずに子種を娘の胎の中に何度も何度もばらまきました。
娘は夜だけではなく昼間も男にとって最高の嫁でした。毎日男が畑仕事や柴刈りに出かけている間にお嫁さんは家の中を綺麗に掃除し、見たこともないような立派な反物を織り着物を縫います。それを市の日に持っていくといつも高値で売れるのです。
それよりも男にとって嬉しいのは、毎日お嫁さんが彼の好みに絶妙に合った食事を作ってくれる事です。そして、お嫁さんはこの家に来た時に言ったとおり、自分は食事を1口も口に入れる事無く、男がうまそうにそれを平らげるのを嬉しそうににこにこと眺めているのでした。本当に食べなくていいのかと男が聞くこともありましたが、いつも同じ答えが返ってきます。
「そういう約束ですから」
蓄えてある米が減ることなく、市の日のたびに大金が入ってくるので男の家はみるみるうちに裕福になっていきました。
しかし、こうして男の元にお嫁さんが来てから1年程が経った春の時期からでしょうか。男の家で奇妙な事が起こるようになりました。何日かに1回くらいの頻度で、蓄えておいた米や味噌が急にごっそり減っているのです。
これはおかしいと思った男はある日、働きに出ていくふりをして天井裏に隠れて様子を伺ってみる事にしました。すると、男がいなくなったと思ったお嫁さんが米と味噌を大量に持ち出し、山のようなおにぎりと川のような味噌汁を作りました。若い働き盛りの男が何人もで食べるような量です。そして驚くべきことに、それを1人で全部平らげてしまいました。
「まだ足りない」
お嫁さんがそう呟いた時、その足元を何匹かのネズミが走りました。おにぎりの残ったご飯粒を狙って集まってきたのです。すると、お嫁さんが物凄い勢いでネズミの後を追いかけて走ります。男の場所からはそれ以上は見えませんでしたが、肉が潰れて骨が砕け、血が滴るような音が部屋の隅から聞こえてきました。
(あいつ、ネズミまで食ったのか。飯を食わんと言っておったから前々からおかしいとは思っていたが、よもや恐ろしい化け物だったとは)
それから男がお嫁さんに気付かれないように隙を見て天井裏から降り、夕方になっていつものように仕事を終えたふりをして家の外から入っていくと、お嫁さんもいつもと変わらないふりをして夕飯の支度をしていました。男はどうやって別れ話を切り出そうか必
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