図鑑世界童話全集「一寸法師」

 昔々、ある所に仲のいい夫婦がおりましたが、お互いに40歳を超える年頃になっても子宝に恵まれずに大変悩んでおりました。これが妖やその夫でしたら40歳と言えどまだまだこれからという所ですが、当時のジパングでは人間の40歳といえばそろそろおじいさんおばあさんになろうかと思われるような歳です。
 そこで、おばあさんが毎日毎日土地神様の社に行って真剣にお祈りしておりますと、その願いが通じたのでしょうか。2人の間に元気な男の子が生まれました。
 ところが、この男の子の赤ん坊は背丈が1寸(編注:大人の手のひらにすっぽり収まるくらいでしょうか)程しかありません。それでも山の神様がようやくお授けくださった子供だという事で、おじいさんとおばあさんは男の子に一寸法師と名付け、大切に育てました。
 それから、一寸法師が12、3歳くらいになる頃になりますと、さすがに1寸のままというわけではなくそれなりに大きくはなりましたが、それでも普通の男子で言うと6歳から8歳くらいの背丈しかありませんでした。そんな一寸法師を同じ村の若い男達はいつも笑い者にしておりました。

 ある日、一寸法師が小さい体ながらにおじいさんとおばあさんの畑仕事を手伝っておりますと、村の男達がやってきて一寸法師を連れ去ってしまいました。彼らは一寸法師の着物を無理やり剥ぎ取ると、裸にされた彼の姿を見て指をさしながらこう言いました。
「見ろ。こいつ、針を刀の代わりにして腰に差しておるぞ。それで侍になったつもりか」
 それを聞いた男達からどっとあざ笑う声が上がります。これだけでも酷い屈辱でしたが、それに加えて別の男が口にした言葉は更に酷いものでした。
「あのじじいとばばあもどんな罪を犯せば、こんなにおかしな子供が生まれてくるのだろうな」
(このままでは俺だけじゃなくて、とう様とかあ様も酷い目に遭わされてしまう)
 そう思った一寸法師は小さな船で川に漕ぎ出し、村を出ていくことにしました。




 一寸法師は小さな櫂を懸命に動かして川を下り、海に出ると、別の川の所にある大きな都にたどり着きました。彼はそこで故郷の村にはなかった色々なものを見て回った後、この都でも特に位の高い宰相という役職の人のお屋敷に行って住み込みで働かせてもらえないか頼んでみる事にしました。
 玄関で彼を出迎えたお手伝いさんは、大人のかたちをしているのに子供ほどの背丈しかない一寸法師の姿に大層驚きます。報告を聞いた宰相も興味深く思い、試しに小間使いとして雇ってみる事にしました。

 それからの一寸法師の働きぶりと言いますと、小さい体ながらに目覚ましいものがありました。あっという間に宰相の信用を得た一寸法師は、とうとう宰相の一人娘の世話係を任せられるまでになります。しかし、陰では他の使用人達がそれを酷く妬み、どうにかして一寸法師を追い出す手立てはないかと話し合っておりました。
 一寸法師が16歳になったある日、彼が目を覚ましますと、宰相や他の使用人達が大層怒った様子でやってきました。聞けば昨夜一寸法師が眠っている宰相の娘の布団に潜り込もうとしているのを使用人の1人が目撃したというのです。当然一寸法師は濡れ衣だと抗議しますが、宰相は聞く耳を持ちませんでした。
「私はお前のこれまでの働きぶりを信用したからこそ、13歳になる大事な姫を任せたのだ。それをこんな最悪な形で裏切るとはな」
 そして一寸法師の処遇をどうするのかという話になると、宰相はこう言いました。
「そういえば、こやつは両親が山の神に祈って生まれた子だと申しておったな。それならば神の所に送るのがふさわしいだろう。龍神様の生贄にするのだ」
 一寸法師は再び小さな船に押し込まれ、今度は都のそばを流れる川を遡った山奥まで連れていかれると、そこにあるお堂に置き去りにされました。




 一寸法師はお堂の中に座りながら、宰相の娘の事を考えておりました。
「あの可愛らしい姫様はどうしていらっしゃるだろうか。寝ている間に私に酷い目に遭わされたと思って傷ついたり、変な噂を立てられたりしていなければいいが」
 その時、ガラッと勢いよく音を立ててお堂の戸が開きました。こんな山奥に人などいるのだろうかと思いながら一寸法師がそちらを見ると、頭に角を生やして真っ赤な肌をした大きな体を持つ妖が、その背丈に負けないくらい大きな瓢箪と金槌を持って立っておりました。
「おんやー、ここの主は今日は留守なのかい? ヒック」
 どうやら随分酔っぱらっているようです。
「だ、誰だ?」
「アタシかい? アタシはこの山に住むアカオニ様さぁ。それよりあんた、餓鬼みたいななりをしてはいるが、大人のおのことしか思えない精の匂いがぷんぷんするな。ちょうどいい。アタシの肴になりな」
 そう言うとアカオニは妖術で小さな太鼓とば
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