昔々、ある小さな王国に王様と王妃様がおりましたが、2人はなかなか子宝に恵まれずに悩んでいました。湯治とか祈祷とか様々な方法を試してみたのですが、一向に子供が産まれる気配はありません。
そんなある時、1人の若い魔法使いの女性が王国を訪ね、小さな丸薬が入った袋を王様に献上して、王妃様ともども床に入る前にその薬を1つずつ口にするようにと進言しました。王様の命令で家臣が試しに丸薬をお城の庭にある池に2つ投げてみると、すぐに雌の魚がたくさんの卵を産み、そこに雄の魚がおびただしい量の白いものをかけていきました。
その日の夜から、丸薬を飲んだ王様と王妃様は若い頃に戻ったかのようにベッドの上で情熱的な愛を語り合うようになり、やがて王妃様はかわいらしい女の子を産みました。
王様も王妃様も待望の娘の誕生を大層喜び、盛大な祝宴を開きました。王国のしきたりに従い、この祝宴には国中で最も優秀と認められた魔法使い達が招待され、豪華なご馳走がふるまわれます。やがて宴もたけなわになると、魔法使い達は新しく生まれた娘に、この子が美しく多くの人達から愛されるお姫様になるようにというおまじないをかけました。
この時の祝宴にはあの丸薬を王様に献上した若い魔法使いも招待されており、王様はこの魔法使いを娘の教育係に任命しようと考えていたのですが、気が付くと若い魔法使いはお城からかき消すように姿を消していました。
娘は魔法使いたちがかけたおまじないの通り、美しいお姫様に成長していき、国内外の多くの人達から慕われるようになりました。しかし、この呪(まじない)いはやがてお姫様にとって呪(のろ)いに変わっていきました。
お姫様の美しさと人望に目を付けた近隣諸国の王族達が、それぞれにお姫様を自国の王子の結婚相手にしようと企み始めたからです。他の国を差し置いてお姫様を自分たちの国の王子と結婚させることができれば、それだけ自国が強い力を持つことの証明になる。どの国の王族も考えることは同じでした。お姫様の事を人間ではなく自分達の力を示すトロフィーと考えたのです。
程なくして、主神教団と強い繋がりを持つ隣国の王子様がお姫様と結婚することに決まり、顔合わせの席が設けられることになりました。お姫様は顔も見たことのない相手との結婚が勝手に決められた事に納得できずにいつまでも大声で泣きじゃくり、その場に居合わせた者は皆どのようにして場を収めるのかと困り果てます。すると、結婚相手である王子様がお姫様の前に進み出て、そこまで嫌がるのならこの結婚話を反故にして差し上げましょうと請け合いました。王子様のお父上である隣国の王様は勝手な事を言う息子に憤慨しましたが、王子様はお父上にこう言って説得しました。
「彼女はまだ7歳。まだまだ世間の物事を理解できているとは言えないでしょう。確かこの国では正式に結婚できるようになる年齢は15歳だったはず。8年もあれば、彼女も国の為に自分の立場を弁えなければならない事を学ぶはずです」
それを聞いた隣国の王様は納得し、お姫様が15歳の誕生日を迎えるその日まで結婚話を保留にすると言いました。しかし、王子様は心の中では逆の事を考えていました。8年もあれば父上や王国の有力者達の考えを変えさせることができるかもしれないと。王子様はお姫様の姿を一目見た時から彼女に惚れ込んでいましたが、むしろだからこそ、愛する女性を悲しませるようなことだけはしたくなかったのです。
その日の夜、お姫様はベッドの中で泣き腫らして目を真っ赤にしていました。
「保留にしてくださると言われたけど、結局は同じ事だわ。私は15歳の誕生日になったら、あの国に贈る貢ぎ物にされてしまうのよ」
すると、真っ暗な部屋の中に突然もう1つの影が現れました。
「姫様、私が力を貸して差し上げましょうか」
それは、あの日お姫様の父親である王様に丸薬を渡した若い魔法使いでした。
「もし姫殿下が15歳の誕生日になってもそのお気持ちが変わらないのでしたら、このお城の端にある塔のてっぺんまでお越しください。私が殿下に生まれ変わりのチャンスを差し上げましょう」
お城の端にある塔というのは、ここ何年も使われずに物置のようになっている場所です。それだけ言うと、魔法使いは再び陰の中に溶けていくように姿を消しました。
同じ頃、お姫様の父親である王様は、他の魔法使い達を呼んで娘の結婚について占わせていました。もし隣国との結婚話がこじれて戦争にでも発展すれば、国力で大きく劣るこの国はなすすべもなく滅ぼされてしまう恐れがあったからです。
しかし、占いの結果が出ると魔法使い達は困ったような様子で互いの顔を見合わせていました。
「どうした。さっさと申せ。悪い結果だったとしても、むしろその運命に備えておかなければならないからおま
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