死しても消えない、その想い

わたしは炎の中、目覚めた。

「(ここは…?)」

赤々と燃え盛る炎に城内が包まれている。
当たりを見渡すと一人の侍が畳に伏せていた。

「(大殿様…!)」

わたしは大殿の如月冬治様の傍へ寄る。
既に息はないけど大殿様の顔はどこか満足した死に顔だった。
大切な何かを無事に託せたような、そんな顔をしている。

「大殿様…あの世へ旅立っても、お幸せに暮らしてください」

もう聞こえないと思うけど、わたしは大殿様に伝えた。
大殿様を仰向けにしたまま脇差を胸に置いた。

「ごゆっくりお休みください…大殿様」

わたしは黙とうをささげた。
再び現状を確認する為、燃え広がる城内を見た。

「(どうして、わたしは生きているの?確か胸を貫かれて、それで…)」

そこである事に気づいた。
炎の中だというのに熱くない。

「(なんで…?)」

訳が分からない。
胸を貫かれて血は大量に流れたはず。
それなのにどうしてわたしは生きているのだろう。
わたしは壁に立てかけてある鏡へ向かった。

「…っ!?」

そこで、わたしは驚いた。
今の自分の身に起きた、その姿に。
炎の明かりでよくわからないけど全身に生気が宿っていない。
それどころか貫かれた胸の傷が徐々に塞ぎ始めている。

「(これは一体、どういう状況なの?)」

付近を再度見渡すと、そこに不審な刀があった。
先程まで、そこになかったはずの刀である。

「何故こんなものがここに?いえ…それよりも」

見ればその辺りだけ何故か火の手が回っていない。

「(違う…火の手が回っているのではなく、火が避けている…?)」

あそこにいれば城が焼け落ちるまで安全という事になる。
わたしは何かに導かれるように刀の傍へ来た。
そして、その刀を手に取る。
すると溢れんばかりの妖気がわたしを包み込んだ。
その日、わたしはアンデッドとして二度目の生を受けた。





城が焼け落ちた次の日。
わたしの身体は異様な倦怠感に襲われた。

「(この怠さは何なの…?)」

生前から鍛練は欠かさず行なっていた為、こんな事は初めてだった。
わたしは休息の為、幼き頃に冬夜と一緒に見つけた隠れ家に身を置く。

「ここの風景は全く変わってないわね」

誰に話すでもなく独り言のようにつぶやいた。
生前の記憶から蘇った幼き日の思い出。
冬夜とは幼馴染のような関係で三つ下の弟みたいな存在でもある。

「あの頃は楽しかったわ…わたしも冬夜も立場が関係なく自由だった」

目を瞑れば当時の思い出が今でも鮮明に映し出される。

「いつから、わたしと冬夜の関係は幼馴染から主従になったのだろう」

わたしは再び目を瞑り、自分自身を見つめなおすことにした。
もしかしたら、その中で倦怠感の正体が分かるかもしれない。
そう思い、わたしは生前の記憶を頼りに過去の断片を紡ぎ始めた。





わたしは令月椿姫。
如月家の先祖から代々仕える武家の娘である。
娘と思うなかれ、令月家は男女関係なく剣の才能に恵まれていた。
わたしもその内の一人であった。
そして冬夜と出会ったのも父・令月史春のお蔭だった。

「今日はどうした?史春、あの時の話か?」

わたしの父と冬治様は度々、顔を合わせては城下町に降りていた。
そのまま共に警備を行い、時には酌を飲み交わす仲でもあった。
そして夜通し飲んでは父上は母上に、冬治様は奥方様に怒られていた。

「ああ、娘を紹介しようと連れてきた、ほら椿姫」

わたしは父上に促され、如月冬治様に挨拶をした。

「初めまして如月冬治様、父・令月史春の娘…令月椿姫でございます」
「初めまして令月椿姫殿、君の父上から聞いていると思うけど私が如月家現当主の如月冬治だ、以後お見知り置きを」
「よ、宜しくお願い致します」

わたしは頭を下げた。

「ふむ、史春…昔のお前より、ずっとしっかりとした娘だな」
「それを言うなよ…」
「ははっ、まぁお蔭で私もすぐに打ち解けられたからな」

父上と冬治様が話していると奥の方から一人の女性が現れた。
その隣には如月家次期当主、如月冬夜様の姿があった。
これがわたしが生涯仕えることになる彼との出会いだった。

「冬治様、史春様がお見えになったのなら教えてくれてもいいのに」
「すまない…初音」
「史春様、ようこそ」
「これは奥方様」

父上は冬治様の奥方様、初音様がお見えになると膝をついた。
わたしもそれに倣って膝をついて首を垂れた。

「あら、その娘さんが冬治様の仰っていた冬夜の付き人兼護衛の方?」
「左様です、奥方様…ほら」

わたしは父上に促され、今度は如月初音様に挨拶をする。

「初めまして冬治様の奥方様、父・令月史春の娘…令月椿姫でございます」
「初めまして令月椿姫殿、わたしは初音と申します…お見知り置きを」


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