赤々と燃える城内。
―「仕留め損ねましたね…」―
目の前で崩れ落ちるのは武装した若い女侍。
―「生きて…くだ…さい…」―
次の瞬間、猛り狂う炎が全身を包み込んだ。
「っ…!?」
私はすぐに半身を起こして辺りを見渡した。
だが城内は燃えておらず、武装した若い女侍もいない。
「(夢…か…)」
気付けば毛布を固く握りしめていた。
「(やけに生々しい夢だったな…)」
手の平を見れば異常なまでに手汗をかいていた。
「(それもその筈だ…今の夢は実際、本当に体験したことだ)」
私は布団から出ると護身刀を持って庭園に出た。
夏の虫は鳴りを潜め、秋の虫の鳴き声が庭園から静かに聞こえる。
夜空を見上げれば今宵は月が見えない。
深夜という事もあり、城内は静寂に包まれている。
「む…?」
すると前方に異様な気配を感じた。
その気配は人ではない何か別の気配。
私は護身刀に手をかけて口を開いた。
「そこにいる者、姿を現せ!」
暗闇の中に問いかけたが返答がない。
「返事をせずともいいが私の間合いだぞ?」
すると闇の中から甲冑の音が聞こえた。
「(人の言葉が分かるのか…?)」
暫くして薄ぼんやりとだが輪郭が見えてきた。
まだ暗くてはっきりとわからないが、どうやら若い女性のようだ。
「どうやって、ここへ来た?」
「…」
「もしや、この城に縁《ゆかり》ある者か?」
「…」
しかし、若い女性は答えない。
「では、こんな夜更けに何の用だ?」
「…」
「はぁ…今宵は月の光がない、早々に立ち去れ」
それだけを言い残し、寝所へ戻ろうとした直後の事だった。
「…っ!?」
闇の中に煌めく凶刃が見えた。
私は咄嗟に鞘から刀身を抜き、それを受け止める。
「女…何の真似だ?」
「…」
「どこぞの領主より、派遣された刺客か?」
「…」
だが女性は黙ったまま凶刃を振るう。
暗闇ゆえに私は防戦に徹する。
相手の目的もわからないから迂闊に手を出せない。
「やめろ!そなたと刃を交える理由がない!」
暗闇の中、不気味に響く剣戟の音。
「(この女…)」
防戦で気づいた。
女性は真っ暗な闇の中だというのに的確に凶刃を振ってくる。
「(それにこの太刀筋…まさか!?)」
瞬間、脳裏に過去の記憶が蘇った。
記憶の中、見えたのは城内の庭園。
今の庭園よりも広い庭園だ。
私はその場所を知っている。
否、忘れるはずもない。
「君の剣技はいつ見ても惚れ惚れするよ」
そこでは二十歳前後の女性が刀を構えて鍛練を行なっていた。
美しい容姿、長いまつ毛、黒い瞳、長い黒髪を後ろで束ね、額に鉢巻。
この国には侍道着が男性用と女性用の二着あり、若い娘は女性用を着ている。
故に侍道着を着ているのは珍しい事ではない。
「ありがとうございます」
若い娘は一旦、鍛練を止め、片膝をつき、お辞儀をする。
彼女の家は私の先祖から代々仕える武家の女性で剣術の腕前はかなりある。
幼き頃より、仕えている為、自然と顔見知りになった。
幼馴染のような関係で私の三つ年上の姉みたいな存在でもある。
「けど、あまり無理はしないでくれよ?椿姫」
「心得ております」
それはいつもと変わらない城内での毎日。
だが、そこで事件は起きた。
それは皆が寝静まった深夜の刻。
気配を感じ、目が覚めると何かの焼ける匂いがした。
それは人が焼ける匂いではなく、城が焼ける匂いだった。
不審に思い、外を見ると夜空が赤く燃え、小さな城下町が炎に包まれていた。
「…っ!?」
城下町に視線を移すと多くの民達が逃げ惑っている。
「(一体誰が…?いいや、それよりも!)」
すると武装した女侍の椿姫が現れた。
「ご無事ですか?」
「ああ、すぐに支度する…待っててくれ」
「はっ!」
私は急いで侍道着に着替え、刀を腰に下げる。
何者かの仕業かは分からない。
だが私には民の安全を守る義務がある。
「よし」
「既に火の手は上がっております!」
「分かった、民たちはどうだ?」
「既に事態収集の為、各々侍方も動いております」
「城内に残っている者は?」
「今、確認が取れているのは冬夜様と大殿…わたしの三人です」
「(つまり他の侍たちの安否は分からないと…)」
大殿とは私の父親の事だ。
私は急ぎ、椿姫と一緒に向かおうとした。
だが既に火の手は目の前にまで迫っていた。
「お早くお逃げ下さい!」
「そうはいきません」
「何奴!」
赤い炎の中、一人の男がいた。
椿姫はすぐさま戦闘態勢を取った。
「私は“ある人物”から依頼を受けた者です」
「ある人物?」
そこに佇むは白い戦闘服を着た死神。
「故あって貴方を葬ります」
「葬る?」
「だから悪く思わないでくださいね?如月家次期領主…如月冬夜!
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