俺の若様が素直になった理由

 もう夜も更けて部屋に戻ってきた時。屋台で買った白くて甘いお菓子の食べきれない分を紙袋一杯に詰め込んで、テーブルに置く。
 散々買い物に走らされた分、荷物は多い。それでも、自分を縛る因果から解き放たれた若様の素直で天真爛漫な満喫振りを目に出来ただけでもその分の苦労の報酬はもらった様なものだった。
「ねぇねぇ、この服なんかどう思う? 可愛いだろ♪ 可愛くないとかほざいたら死刑だから」
 購入したフリフリの桃色ドレスをシルエットに押し当て、笑顔で脅迫してくる若様を背に苦笑しながらお望みの台詞を返す。
 それだけで若様は満足そうに鼻唄を歌うのだ。
「こういうの、ボク、ずっと着てみたかったんだ。今はもう女の子だし全然着ちゃってもいいんだよね」
「でも翼とか尻尾とかありますし、綺麗に着られるんでしょうか」
「其処はまた後でハルに切って貰う」
 自分では断固として雑用は行わない。其れを他人がやってくれるのを当然と思ってしまっている所は、やっぱり淫魔になっても若様は若様だ。
 そんな彼女は購入した女の子らしい服をクローゼットに一通り仕舞い込んでから、向こう側が殆んど透けて見える様なベビードールを手にした。
「うん、今日はコレを着て寝よう。最初から羽とか尻尾とかに通すのに丁度いい穴もあるし。じゃあハル、着替えさせて」
「畏まりました」
 これを着た若様の姿を想像する。桃色のフリルを通して、下半身には女の子らしいV字のパンティが、上半身には殆んど隠せていない乳頭の姿が透けて見えるのだろう。
 俺の男の部分が僅かに面を上げる。
「今日は特別エロい脱がせ方で頼むよ。濡れちゃうくらいに。くすくす」
 小悪魔的な笑みを浮かべてベッドに腰掛ける若様に、俺は息を荒くしながら手を伸ばした。
「……ん、ふぁ」
 指先が触れた瞬間溜まらず息を漏らした彼女に構わず、スパッツ生地の中に両腕を滑り込ませ、腰から腋下まで撫で上げた。
 服の穴から翼を抜き取る序でに付け根を擦ってやると、気持ちいいのか苦しいのか、よく判らない声を出す。
 服を取り去る段階を察知した若様が自分から腕を伸び上げる。俺がその二の腕を掴み、差し込んだ肘を持ち上げて服を脱がそうとした時に、一番若様と顔が近くなった。
 腋窩に触れる腕から若様の高鳴る心臓の鼓動を感じる。間近に見える彼女の瞳も濡れて輝いている。平静を装っているつもりだろうが、上気して色付いたその頬は隠せてはいなかった。
「……あふぅ」
 じっと見詰められるのが恥ずかしいのか、視線を逸らされる。
 彼女の肌に吸い付くスパッツ生地を撫で擦り、剥がして行く。掌がつるつるな体の上を滑る度、若様は鼻から息を漏らし始める。
「んっ……ん、ん……」
 うんと上に伸ばした若様の腕を、包み込む様に更に上へと撫で上げた。ずっと指を滑らせて、若様の指の先へ絡ませる。俺の肘で押し上げられた衣服は自然に若様の頭を抜け、二人の腕に引っ掛かったまま、まどろむ。
 一際近くなった互いの唇に、熱い吐息が掛かった瞬間、壮絶に重ね合わせたいという衝動に駆られた。
 それをぐっと堪え、今は若様の下僕である自身の身分を見返して、腕に絡まる服をそっと取り去った。
「はぁ、はぁ……っ」
 若様は既に息荒く、男だった頃と然程変わりのない胸とそのぷっくりと膨らんだ乳頭を上下させて、腕を支えに気だるく体を傾け、此方を見詰めていた。

 その姿が   堪らなく、俺の理性をめちゃくちゃにして、劣情だけの化け物にしてしまいそうな程欲心的で。

 顔が近付いた瞬間、吐息が掛かった瞬間、理性が欲望を堰き止めたあの時を後悔する様に、気が付けば俺は若様の体を押し倒していた。
「んぁっ。……ハル?」
 どうしたの、と少し心配そうに小首を傾げた若様の、普段とはギャップのある反応。きっと押し倒される事を想定はしていなかったのだろう。若様は相手をこうしてからかう時に反撃を受けた事がない。からかおうと考える小悪魔的な思考を巡らせる余裕もなかったのだ。
 俺は堪らなく、この人の天使の様な素の振る舞いに欲情してしまい、歯をぶつける勢いで甘く濡れる唇に吸い付いた。
「んぷっ!? ちゅぶっ、ぺろ、ハル……!? んんっ、ふぅ……っ」
 目を見開いて驚く若様だったが、歯を舐めて舌を絡まそうと誘うと素直に前門を開き、呼吸の出来ない口の代わりに鼻で息を漏らしながら、熱く滑り気を塗した舌を伸ばして唾液を交換し合った。
「ハル……ん、ちゅ、ぱぁ……ダメ、ちゃんと……はむっ、ちゅう……今日は、可愛いお洋服着て……ちゅ、ちゅ……するって、決めてたのに……じゅるる」
 俺が唇を貪る合間、漏れた息で必至に訴える若様。
 返答を言葉にする為、僅かばかり唇を離す。
「大丈夫ですよ、若様。着飾らなくたって、若様は可愛いです」
「あ……う、うん…
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