俺の若様がアルプな理由

 戦士ギルドと魔術師ギルドが地下市街に乗り込んできた翌日、俺は日常の一風景であったかの様に、甘い匂いに包まれたベッドの上で目が覚めた。
 この肌触りの良い感触と親しみ深い香り。間違いなく若様のベッドだった。
 昨晩の記憶は途中から途絶えていた。ギルドマスターの恨みがましい目が俺を見据えて、それから俺は気を失った様に思う。畏怖していた存在から睨まれて気を失ったのかと思っては見たが、どうも違和感を覚える。今良く考えて見ればあの男抱いた恐怖は嘗て思っていた類とは違うものだった。俺の目に映ったあの男は嘗て義賊として名を馳せた人物ではなく、ただ自分の子供を手篭めにする狂人以外の何者でもなかったのだから。
 ふと、右腕にしっかりと巻き付く何かしらか細い重みに気が付いた。
 首を傾けて見る。   其処には可愛らしい寝息を立てて、天使が眠っていた。
「……ッ」
 其処で思い出す。若様はもう若様ではなくなった。いや、若様は若様という淫魔になったのだ。
 そして俺は彼、いや彼女に精を搾り取られた。あの狂人に睨み付けられた時でさえ、彼女は嘗ての父の姿に一瞥もせず俺に追加の射精を促したのだ。
 結果、俺は昏倒した   。其処まで思い出した瞬間、忘れ去っていた疲弊がどんと体を押し潰した。
「……全く、どういう事だか」
 頭の中がこんがらがっている。昨晩は色々と起こり過ぎた。
 若様が淫魔となってこうして俺の腕にしがみ付いて寝ているのは結果に過ぎない。その過程で若様は実の父親に性を弄ばれていたし、受付の男が戦士ギルドの回し者だったという事もあったし、最終的にはこの国の三大冒険者ギルドが一室に介したという事もあった。
 何もかもが俺をおいてけぼりにして事が進んでいた。
    何が、どうなって、こうなったのか。
 俺にはそれを説明するだけの立ち位置には居ないし言葉も見付からない。
 若様に説明してもらう他はない   。そう思って視線を向ける先は神の使いと形容されるに遜色ない無防備な寝顔を曝す彼女だった。
 これは若様なんだ、あの傲岸不遜で唯我独尊なクソガキなんだと頭で認識していても、眼前に曝される美少女の寝姿に俺の胸の鼓動は早まるばかり。悔しいと思うのは変かもしれないが、可愛い。可愛過ぎる。
 若様の安らいだ顔を見詰めているだけで、俺は不思議と幸せな気持ちになっていた。頭がぼーっとし始めて、一日中眺めていても飽きないだろうな、と思ったのだ。
「……うーん」
 若様の眉間が波打ち、喉の奥から音が漏れた。
 不機嫌そうに薄く目を開けた若様の瞳からルビー色の光が覗いた。
「おはようございます、若様」
 そう声を掛けると、若様は暫しキョトンとした表情で俺を見詰めた後、ぼふんと煙を上げて真っ赤に茹で上がった。
「な、ななななんでお前がボクのベッドに……?!」
 わたわたとし始める若様だったが、唐突にハッとした様子でコホンと一つ態とらしい咳払いをして見せた。
「ま、まぁ、お前も漸く自分の立場が判ってきたというか……そういう暴挙に出てみたくなる気持ちは当然かもしれないな……うん」
 何か勝手に納得している様子。
 暫くして落ち着いたのか、若様は俺の体にしな垂れかかって来てそっと唇を寄せてきた。
「ほら、お前も身の程を知ったんなら判るだろ?」
「……おはようのキスとか言わないですよね?」
 若様は多少身動いだが、毅然としてこう返す。
「さぁ? お前が正解だと思う事をしなよ。間違ってたらオシオキ」
「了解しました、若様」
 若様が何を求めているのかは歴然だった。
 俺は差し出された桃色に光る唇に自身を重ね合わせる。それと時を同じくして若様は俺の首に腕を回し、決して離れない様に強く抱き締めるのだった。
「ちゅっ、ちゅっ、ぺろ」
 お互いの舌と舌が重なり合い、お互いの口を行き来する。若様の舌が一際強く突き出され、軽く嗚咽を漏らす。そんな俺の様子を楽しげに眺めた後、若様は自分にもやれといわんばかりに舌を下げた。俺の舌を受け入れると、今度はまるで奥に引きずり込もうとするかの様に舌を巻き付かせた。
「んん……好き……」
 キスの合間、吐息の中に思わず漏らしてしまった本音。若様の声でそれを耳にした瞬間、俺は驚きを隠せず一瞬舌遣いを鈍らせた様に思う。
 若様は顔を真っ赤にすると、俺の舌を噛んだ。当然本気で噛み切る強さなんかじゃないが、これがそこそこ強めで痛みが走る。離してもらった後は暫く歯の跡に沿ってヒリヒリが収まらなかった。
「……不正解だから、オシオキけってー」
 クリームを舐め取るかの様に自身の指を舐めながら若様は下心に満ちる悪意の籠もった瞳で告げた。
「ちょっ、腹いせでしょ、それっ」
「五月蝿い。お前は、何だ?」
 若様が俺の頬に手を差し伸べてじっと瞳を見詰め始めた。
 真っ赤な
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