ルシエラの居る掘立小屋から立ち去った後、周囲の気配を探りつつ茂みを掻き分け進む。
周囲に人気がない事を確かめてから、ポアユイズに話し掛けた。
「ありがとう、ポアユイズ。気を遣わせたな」
一般人の前でポアユイズが無暗に正体を現せば余計な問題を招きかねない。得体の知れない人物から俺を護ろうとするよりも、先ず俺の治療に専念してくれたというのは素晴らしい判断だった。
『……大丈夫?』
ポアユイズはトクン、と不安げに脈打ってみせた。
「気になるのか?」
不安げな意識を感じ取り、言葉を掛ける。
暫く息を吐く様な時間を置いてからポアユイズは疑念を投げ掛けて来た。
『どうして、あの人見逃したの?』
「……見逃す、か」
『そう。だってあの人、ヴァーチャーに酷い事した』
手当てを受けている間、ずっとポアユイズは俺に警告を発し続けていた。だから暫く気を失っている振りをしてルシエラの動向を見ていたのだ。
「さぁ、どうなんやろうな」
『どういう事? あの人、悪い人』
「確証がない」
『かくしょう?』
「ホントにそうなのか、判らないってこと」
『ヴァーチャー、ポアユイズの言う事、信じないって事?』
「そうじゃない……」
ポアユイズの言う事は理解出来る。彼女が理解出来る範疇も。只、確証がなかった。だから見極めようと時間を惜しまずその場に留まっていた。その為に手当てを受けながら気を失った振りをしていようと思っていたが、運悪く悪漢に襲われ仕方なく目を覚ます事になった。そして手伝う事を名目に彼女の仕草に不審な点は無いか観察していたのだったが、確証は得られなかった。彼女は俺の目に全くの無害に映っていた。
「俺も最初はそう思った」
『うん、あの時ヴァーチャーもそうだなって言った』
「ケド、やっぱりあれは魔力が似てるだけやったよ。治癒魔法まで掛けられて魔力を読み違える程耄碌はしてないさ」
『でもその後、あの子のアソコ見て一緒だって思ってたじゃない』
お前、人の思考を勝手に……!
「……っ、お前なぁ」
『あうぅ、怒っちゃヤー』
意識が委縮していくポアユイズ。これ以上追及しても仕方がないだろう。
「まぁ、いい。確かに凌辱された時見えた部分……内股の肉感や肌の色は唯一セティと名乗った黒子女の身体で見えた場所やから憶えがある。確かに、同一人物と思えるほど同じやった。それに声も、背も、匂いも同じ。オマケにあんな所で生活しているにしては生活慣れしてなさすぎるってトコロも妖しいと思った」
『じゃあ!』
「じゃあどうしてあそこにいるのか、や。何の為に? どうしても、意味が見えない」
だからルシエラが今の“セティの正体”だと決定付けるのはまだの早いのだ。
「仮にルシエラがセティだとしても魔力の違いが微妙過ぎる。あんな誤魔化し方を態々したというより元々そうだったと考える方が自然……」
いや、待てよ。
今のセティには幾つかの制限があるとしたら。
……成程、そういう事か。
俺は一度足を止め、落ち着く為に木の影に背を預けた。
「そうや、確かセティは“蘇った”と言ったんやったな」
『どうしたの……?』
そうか、迂闊だった。
先ず、セティに自分は蘇ったと告げられた時何故俺は信じなかったか思い出せ。セティ本人と姿や声が違ったからだろう。
じゃあなんで、後から出て来た旅団メンバーに俺は見憶えがある?
「他の亡霊とセティは、蘇り方が違うんや」
俺は考えを整理した。一瞬でピンと来なかった自分の愚かさを論理的な解説と共に諭す。
「恐らくセティ以外の亡霊は何らかの術式に依る特別なもの。しかし、恐らくセティは蘇らせられる前に何らかの形で意識を別のモノに変えてしまっていた。彼奴はネクロマンサーでアンデッドの恩恵を受けやすく、今は魔王の魔力の濃い時代。そう考えると……」
「 ふふ、やっと気付いてくれたのね」
含みを持たせた笑いが耳に届く。
セティ、いや、その姿はルシエラである少女が木の葉を踏み締め木の陰から姿を露わした。その表情は先程の心優しい純粋な少女とは違う、何かに対する欲望に満ちた笑みを浮かべていた。
「あんな状態で彼等から逃げるなんて、並みの冒険者じゃ絶対不可能。しかもあの崖を飛び降りるだなんて、無茶したわね。貴方にしか出来ない、そんな事」
「これはこれは。セティお嬢様、お誉めに与り光栄です」
俺が嫌味満載で恭しく返す。
すると目の前の少女はほんのりと頬を染め、目には微かな涙を潤ませる。
「今でも、貴方はそう呼んでくれるの?」
「へ?」
彼女は俺の知らないタイミングで涙珠を頬に転がした。だがすぐに彼女は目を拭い、俺を責める様にギロリと睨みつける。
「けど、貴方はウソツキだから。ウソ吐いたから、それもウソなんでしょ?」
「……何を
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