『 貴方は悪魔なの』
『 貴方の為に用意された平穏なんて何処にもないの』
『 貴方は理不尽に愛されてるの』
今まで上手くいった事なんてなかった。
この世界は、俺を貶める為に動いている。
だから、俺は、幸せになっちゃいけないって。
俺に平穏は手に入らないんだって。
理不尽しか、俺の周りには集まらないんだって。
……誰も救えないんだって。
そう思ってた。
だから、言わないで欲しかったんだ。
俺は、それから目を背けてしか心を保てないから。
ほんのちょっぴり強かったあの頃とは違うから。
今の俺は、弱い。
力を失って、脆さだけが残って。
俺は弱くなったから。
「くぅ……ひっく、うぅぅ……っ」
駄目だ。心が折れた。
涙が止まらない。折れた先から止め処ない。
俺は人より出来る事が多かった。
けれど、誰よりも強かった事なんてないんだ 。
「……駄目だな、俺は」
一先ず落ち着いてみる。駄目なのは百も承知だった。先ずは受け入れる事から初めて、大きく息を吸い、体の芯に酸素を送り込んで、溜まった物を口から吐いた。
目的を見失っては駄目だ。今はフレデリカ達の元に戻らなきゃいけない。その為には理性を保たなくちゃいけない。
判らない事は沢山ある。キイェル・バンガードが何故、どうして蘇ったのか。そして何故態々セティが俺の目の前に現れたのか。これらについては今の俺が知っている情報だけでは考え至るには足りない。後回しだ。
それと、此処は何処だろうか。俺は教会に捕らわれた筈なのに、どうしてキイェル・バンガードに身柄を拘束されるに至っているのか。気絶している間にどういう遣り取りがあったのか、全く見当がつかない。教会はキイェル・バンガードと繋がっているのだろうか。今はそう仮定しておく事にしよう。
最期に、セティ 蘇ったと仮定しての話 がこれから俺に何をしようかという話だが……。それは彼女が言っていた通りの事だろう。それで、一体誰が得をするのかは知らないが。
しかし、驚いたのは彼女から本当に殺意が感じられなかった事だ。俺を針山にした野郎を差し向けた事実とは矛盾する様だが、昔から彼女の取る手段は目的から乖離して見える事があるから、らしいといえばらしいのだが。
「……そう、いえば」
喉の渇きを思い出して来た頃。奇妙な事が一つあったな、と思い到る。
セティが柏手を打つと、俺を拷問していた男 かつて俺が殺した憶えのある が“砂になって”消えた事だ。
「そうだ……」
セティが言う様に連中が蘇ったとするなら、さっきの男が砂になって消えた事をどう説明出来る? 俺の足元にはまだその男の残骸が散らばっている。拷問された所為で垣間見た幻覚ではない事は確信した。
蘇ったというのは、もしやハッタリか?
俺は知っている筈だ。死んだ人間を完璧に“蘇生”させるなんて事は摂理を曲げる事に他ならず、到底無理だ。輪廻の輪から、巡り回る筈の魂を引き抜くのは死神か何かくらいしか出来ない。出来たとして、100%魂が自然な状態で定着する新鮮な体が必要だ。それは1%の相違も許されない。例え完璧な蘇生の術式を知り得たとしても、先ずその前提条件が予想される。
それに、対価として支払う代償は確実に大きい事が予想される。だから、フレデリカの完全蘇生を諦めたんじゃないか。俺は。
それなのに、キイェル・バンガードが再興出来る程の人数をそれだけの条件をクリアして蘇生出来たなんて、どう考えてもおかしい。それを鑑みると、どうしても目の前に広がる砂が懐疑的に見えてしょうがなくなって来た。といっても、囚われの身ではどうしようもないのだが。
「……ぬぅ」
考え事をしているとなんだか眠くなって来てしまった。
中途半端に両手を吊るされた状態だが、慣れて来てしまえばこの体勢でも快適に寝れなくはない。
「……ぷふぁ」
変な欠伸が出た。これはいよいよ寝なければなるまい。
俺は周囲に耳を澄ませる。遠くで虫の鳴き声が聞こえる。草が風に撫でられる音が聞こえる。鉄格子から吹き込む風の音が聞こえる。
俺は静かに目を閉じて、外の風景を頭に描きながら、眠りに落ちた。
――――――――――
嫌な夢を見た。
俺はその度に目を覚まし、もう一度眠ろうとするが、今度は別の夢が俺を苛んでくる。
俺が目を覚ましたのは三回。見た夢も三つ。
一つ目の夢は、大飢饉。
二つ目の夢は、大火災。
三つ目の夢は、大虐殺。
俺には数ある後悔の中で、特別後悔している事が三つある。
俺が自棄になった元凶とも言うべき事件だ。
その時の夢を見ると、俺はどうしようもなく、おかしくなってしまいそうで
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