【起死回生の一策】
やがて、約束の時間が過ぎた。
俺の策は、未だ成らない。
(どうしているのだ……)
俺は僅かに焦る。ヴァーチャーの姿が見当たらないのもそうだし、フレデリカの攻撃はなんとかエルロイが食い止めているが、どう見ても限界を超えている。周囲のゾンビ達の攻撃も一向に収まる気配がないし、味方の疲弊は明らかだ。
「ハァ、ゼェ……ッ! ま、まだやんのか!? は、早くあの野郎見付けてぶっ倒そうぜ!」
「ケイフ、焦ってはいけません。相手は闇に乗じて攻撃して来るつもりです。此方から動けば、その隙を突かれます」
「そ、そうは言ってもよォ! ……此方は、とっくに限界なんだ……ッ」
彼女だけの問題ではない。口に出さずとも、全員に限界が迫っていた。
「どうやら、小生達を疲れされた所を一気に畳み掛けるつもりのようですね、ゲーテ様」
「ああ」
ゼルの目測通りだ。ヴァーチャーはエリスを仕留められなかった事に、僅かに自尊心を傷付けられたのだろう。だから今度は念には念を入れ、俺達の疲労がピークに達した時、確実に仕留めに掛るつもりだ。
そのお陰で存分に時間が稼げるのだが。
「だ、駄目だ……! も、もう、限界ッ……」
そんな時、萎びた声を挙げたのはエルロイだ。先程から金属音がよく聞こえる様になったとは思っていた。疲労の為に足元がおぼつかず、フレデリカの槍撃を次第に回避出来なくなっていたのだ。
エルロイは足元に転がるゾンビの身体に足を引っ掛け、尻餅を着く。フレデリカは身体を捻り、彼の首筋に向かって槍を振るった。
「しまっ 」
反応が遅れた。フォローしても間に合わない。俺の体にも疲労が蓄積していたのだ。
だがその瞬間、フレデリカの動きがピタリと突然止まった。
まるで金縛りにでもあったように。
「エルロイ、大丈夫かっ」
透かさずチェルニーがエルロイを引き摺り起し、フレデリカから離れる。どうやら、何者かが彼女の動きを封じたらしい。彼女は動こうとしながらも、何かに阻まれるように身体を硬直させていた。
何処からか頼りない声が響いて来る。
「ひゃうぅぅ……っ!? お、お化けが一杯だよぅ、アルダーさん……っ!」
「……そう、だな」
どうやら、策は成りそうだ。
声がした天井を見上げる。二つの影が、中の様子を窺っているのが見えた。
その二つの影が何やらぼそぼそと会話をしている。
「ペトロシカ……乗れ」
「へ? ……えぇっ!? と、飛び込むのぉっ!?」
「早く……」
「うぅ……やっぱり、止めよぉよぅっ。明らかに僕達邪魔になるよぉっ」
「なら……俺一人で……」
「わっ、駄目っ。一人にしちゃ駄目ぇっ。判った、行くからっ! 行くから置いてかないでよぅっ」
こうして一悶着しながらも、彼等はこの場に飛び降りてきた。
地面に着地した瞬間、轟音が響く。目測で10メートルはある高さから落ちてきたのだから、その衝撃は凄まじい。何よりそれに耐えられる足は規格外だ。
「待ち侘びたぞ」
飛び降りてきたばかりの二人に声を掛ける。少女を肩車した、長身痩躯の男は鳥打帽の淵を降ろす。
「すまん……配達が遅れた……」
予め呼び付けておいた、陸地最速と謳われた郵便屋のアルダーと、コカトリスのペトロシカのコンビ。アルダーは銀髪を後ろに束ねて垂らす、口数の少ない男だ。対してペトロシカはコカトリスの癖に足が遅く、小柄な娘。首に黄色のスカーフ、頭にはゴーグルを装備している頭に生える鶏冠の様な赤い羽根三枚が怯えたように震えている。
しかし、今の言葉はどっちの意味だろうか。約束の時間に遅れた事をそう言ったのか、それとも配達が遅れたから遅くなったと言いたかったのか。兎も角、アルダーは口下手で誤解を受けやすい性格をしていた。
「フレデ……彼女の動きを止めたのは君か」
一瞬彼女の名前を出し掛けたが、咄嗟に飲み込む。コカトリスの視線の魔力は石化を起こす事でよく知られている。コカトリスのペトロシカはコクリと頷く。
「う、うん……な、なんか危なそうだったから……」
「そうかッ、感謝する!」
チェルニーがそう大袈裟に礼を述べるだけで、少女はプルプルと震える。相変わらずコカトリスというのは臆病なものだ。
「……トドメを刺しておきましょうか」
ヘザーが膠着するフレデリカに歩み寄り、短剣を抜く。
だがエルロイがそっと、ヘザーの手を止めた。
「……其処までやる必要はねぇんじゃねぇか? ヴァーチャーさえ倒せば、此奴は何も出来ねぇんだし」
ヘザーはそれを聞いてキョトンとするが、すぐに呆れたように溜息を吐く。
「はぁ。全く、甘い男ねぇ。……ま、其処が気に入っていたりもするのだケド……」
「なっ……お、お前……」
「おい、エルロイ。貴様、その反応はなんだ……?」
「
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