「ん、む。ぱくぱく、はむっ。……ぷはぁっ！ んまい、んまいっ」
「もう、もっと綺麗に食べなさいよ、ジーノ。クロモからも何か言ってあげて」
「私は、そういう所ジーノらしくて良いと思うけれど」
「えへへー。レインちゃんは細かい事気にし過ぎだよー？ ご飯は美味しく食べるのがマナーなんだからー」
「はぁ……。細かい事を言わせているのは一体誰なのよぉ」
そんな風に姦しく喋りながら昼食を取る魔女達を眺めている内に、三人の特徴がぼんやりと把握出来てきた。
まず、先程から出された料理を悉く胃袋に収めているジーノという魔女は楽天的で邪気のない性格らしい。普段的な屈託ない語調と食べ物を一口食べる毎に見せる幸せそうな笑みがそれを物語る。店を突き上げるに積み上げられた皿のタワーを前にして、この子は自分に正直と思える程その食欲を隠そうともしない。
いつも独特の雰囲気を醸し出しながら気付いた時にはふわりと会話に入っている魔女クロモは、冷静沈着というよりマイペースな性格なのだと気付いた。ただ自分のペースを維持していながらも言葉の端々には他の魔女達にはない計算高さや悪意には満たない悪戯心というものが見え隠れしている。
俺の事を心底嫌っているレインとかいう子は他の二人に加えマオルメに対する外部取付型良心といった所か。先程から口喧しく他の連中の挙動を注意して回っているが、言っている事は常識に倣っていて凡そ魔物らしくない。これで俺の事を常軌を逸する程嫌っていてくれなければ一番気が合ってお互いの苦労話にでも花が咲きそうだと思えた。
なんだかんだで彼女達には彼女達なりの個性があるらしい。別に無個性な集団と思っていた訳ではない、寧ろ個性が強過ぎるとは思えたが、こういう普通の観点から見えてくる個体差というものは、やっぱり人間と変わらないのだと改めて思う。
少しだけ彼女達に興味が持てそうだ。というか、親近感というべきだろうか。親しくする気にはなれなかったが、多少の面倒くらい大目に見てやろう。
「兄上。何をしておるのじゃ、早く〜」
とは考えるものの。俺の膝の上を陣取り、甘えた声でそうせがむマオルメは、あーんと大きな口を開ける。俺は示されるままに、スプーンに乗せられた炒めた米の山を運ぶ。
俺はほとほと何をやっているのかとこの日何度目かの自己嫌悪に陥っていた。食事処に入り、マオルメは有無を言わさず俺の膝の上に乗り、渡されたメニューにお子様ランチの文字を見付けた瞬間から目を輝かせこれぞ好機とばかりに甘え始めたのだ。
口元に炒飯を近付けると待ち切れないかの様にマオルメの口から齧り付いて行き、しっかりスプーンの塩気まで舐め取った。次の山をスプーンに乗せる間にも、彼女はもぐもぐと、嬉々とした表情で料理を味わう。
「うむうむ、この店の料理もまぁまぁの味じゃのっ」
言葉では偉そうだが、これぞ至福の瞬間とでも言いたげ程、気の抜けた顔だった。演技で子供っぽく振舞っているのかどうか図りかねていたが、存外素で子供染みた思考なのかも知れないと思い始める。
「しかし、魔界の方が美味い食べ物が沢山あるのじゃぞ！ 虜の果実を使ったあらゆるデザートもそうじゃし、極上のホルスタウロスから取った最高級のミルクを惜しげもなく使ったケーキなんぞも最高じゃ。どうじゃ？ 今からでも魔界に来ぬか？ 人里では味わえぬ味覚の境地を味わえるぞ？」
唐突にそう言って俺を見上げ、角を胸に擦り付けるマオルメ。何十皿目に平らげたか知らない皿をまた積み上げて、ジーノが言う。
「えへへ、バフォ様は甘いものに目がありませんもんねー」
「むむむ！ 御主は食い物全般に目がないじゃろうが、ジーノっ」
「だってジーノは美味しいもの大好きだもんっ。あ、お兄さーん、ハンバーグランチもう一つ追加ー♪ 後スパゲッティとカルボナーラと、あとステーキ三つとカルーアミルクもねー♪」
ジーノに呼ばれた店員は積み重なった皿をちらちらと見ながら苦笑して注文を受けていた。
一方クロモがマオルメの言葉にこう続けた。
「甘味の他にはやはり精のつく物が主ですが、人間の口にも合うでしょう。……いえ、少し語弊がありますね。人間の口にも合いますが、その殆んどが人知の及ばぬ程美味に仕上げられています。一般人が口にすれば、殆んどがヤミツキになりますから」
「……それは、大丈夫なのか。一般的にヤバい成分が入ってるか何かだと思うんだが」
「ご安心下さい。魔界の魔力に侵食された食材を使う所為です」
「ヤミツキになり過ぎて人間やめる勢いやな」
「よくご存知で」
魔界の魔力に侵食された食物を体内に摂取する事は魔力をそのまま取り込む事と同義だ。流石に消化器官にバリアを張るなんて器用な真似が出来れば話は別だが、そんな事を続けていれば何れ女性は自身が最もそうあるべき姿として
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